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この島でいちばん高いところ05

时间: 2019-04-28    进入日语论坛
核心提示: みんなで泳いで、ビーチバレーをした。お昼には宿のおばさんが持たせてくれたかやく飯のおにぎりを食べた。魔法|瓶《びん》の
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 みんなで泳いで、ビーチバレーをした。お昼には宿のおばさんが持たせてくれたかやく飯のおにぎりを食べた。魔法|瓶《びん》のお湯で、バナナの匂いの紅茶を入れて飲んだ。
 日射しはそれほどきつくはなくて、とても気持ちがよかった。
 ほんのちょっとだけのつもりだったのだ。
 里美が、眠い、と言い出して、桃子のふくらはぎを枕に寝転《ねころ》がった。ていよく枕にされた桃子も、少し疲れたのか、すぐにすうすう寝息を立て始めた。
 聖は身体を焼くのだ、と言って、サンオイルを塗って、浜辺に寝そべった。なんだか気持ちよさそうな三人の様子を見ていると、葛葉まで眠くなってきた。
 ユンジャはまだ飽《あ》きずに、ビーチボールを胸に抱いて海に浮かんでいる。
 ユンジャが起こしてくれるだろう、そう思って、葛葉もビーチマットの空《あ》いた部分に身体を縮めて、目を閉じた。
 砂はほこほこと、身体を芯《しん》から温めてくれるようで、葛葉はすぐに心地《ここち》よい眠りの中に引きずり込まれた。
「ちょっと、起きて!」
 いきなり聖の声がして、葛葉は飛び起きた。聖は脚についた砂を払いながら、青い顔をしている。
「どうしたの?」
 まだぼんやりしたまま返事する。見れば、ユンジャも葛葉の足下で丸くなるように眠っていた。桃子と里美ものろのろと起き上がる。
「時間、もう四時過ぎてる!」
 聖が腕時計を、目の前に差し出した。
 みんなで顔を見合わせる。帰りの船は三時四十分に出る、と聞かされていた。
「うっそお、大変!」
 すぐさま、ユンジャを叩き起こした。荷物は、押し込むようにまとめて、水着のまま船着き場に走る。着替えている時間なんかない。
 息を切らして、船着き場に着いたとき、そこにはだれひとりいなかった。もちろん、船の影もない。
「最低ー」
 里美が空を仰《あお》いだ。ユンジャが、帆布のバッグを探《さぐ》って、携帯を出す。
「うう、駄目。圏外みたい」
「そりゃ、そうでしょう」
 聖が両手を組んで、不安げにあたりを見回した。
「ここ、人住んでいないんだよね」
「うん、おばさんもそう言っていたよ」
「じゃあ、明日までこのままってこと?」
 だれもいない島で、一晩を過ごす。そう考えただけで、葛葉の皮膚に鳥肌が立った。
 顎《あご》のあたりでぷっつり切りそろえた髪を弄《もてあそ》びながら、桃子が言う。
「でも……、宿のおばさんはわたしたちがここにきたことを知っているでしょ。今晩も泊まることになっていたから、帰らなかったら不審に思うんじゃないかな」
 いつも通りの冷静な口調に、なんとなく緊張がほぐれる。ユンジャも力強く言った。
「きっと、警察に連絡してくれるよ」
 葛葉はふいに思う。たとえ、トラブルがあったとしても、桃子とユンジャがいれば大丈夫なのではないか。
 真っ青になっていた聖もやっと落ちついたみたいだった。
「うん、大丈夫だよね」
 里美が、ただでさえ大きな目を見開いて、口を尖らせた。
「でも、船の人、わたしたちがいなかったことに気づかなかったのかな。ちゃんと人数確認してくれればよかったのに」
 もしかして、キャンプかなにかだと思ったのかもしれない。
「どうしよっか」
「とりあえず、着替える?」
 葛葉たちは待合室の裏に行った。順番に足を洗って、タオルを濡らして体を拭いた。
 ビーチタオルを巻いて水着を脱ぎ、着てきた洋服に着替える。
 焼けすぎた肌がひりひりと痛かった。
 身支度を整えて、待合室に移動する。プレハブ小屋に、錆《さび》の浮いたベンチが並んでいるだけの場所だったが、室内というだけで少し落ちつく。
「少なくとも、しばらくは船も迎えにこないよね」
「うん、宿のおばさんも、一時間や二時間遅れたくらいでは、なんとも思わないだろうし」
 下手《へた》をすると深夜になってしまうだろう。聖が深くため息をついた。
「お腹|空《す》くだろうなあ」
「お菓子、どれだけ残っている?」
 ユンジャの提案にみんな鞄《かばん》を覗《のぞ》き込む。ビスケットが一箱残っているほかは、グミキャンディとか、バナナチップスとかが少しあるだけだ。どちらにせよ、五人の夕食には少なすぎる。
「ダイエットだと思えばいいんじゃない」
 ユンジャが言って、みんな笑った。少しずつ緊張はほぐれてきたみたいだった。
 まあ、深夜か、最悪の場合でも明日の午前中には船はやってくる。それまでこちらからできることはなにひとつないのだ。
 少なくとも五人でいれば、お喋《しゃべ》りはできるから、時間を持て余すことなどない。ゆうべだって、明け方近くまで寝ずに喋り続けていたのだ。
 話すことなら、いくらでもある。嫌いな先生の話とか、クラスの感じの悪い子の話。新しくできたアイスクリーム屋の話から、里美のバイト先にいる素敵な大学生の話になる。
 そのファミリーレストランでバイトしている大学生は、自分のことが好きかもしれない、と里美は遠回しに言う。
(どこまで本当かどうかわからないけどね)
 葛葉は少し意地悪なことを考えながら、里美の話を聞いていた。たぶん、ほかの三人も同じことを考えているのだろう。
 里美はうそつきだ。里美の話の中では、彼女はいつも素敵な男の子に憧れられていたり、有名な人と知り合いだったり、お洒落《しゃれ》な場所を知っていたりする。
「不幸パターンもあるわよね。心臓が弱いとか、お母さんが倒れた、とか」
 聖があるとき、くすくす笑いながら言った。
「あれ、うそなの?」
 目を丸くした葛葉の額《ひたい》を、聖がグーで殴《なぐ》るまねをする。
「葛葉、信じていたの?」
 聖と里美は、家が近所で小学校からのつきあいらしい。お母さん同士も親しいのだと言う。
「里美のところのおばさんはいっつも元気そうだし、里美だって健康そのものだってさ」
「なんで、そんなこと言うんだろう」
 裏切られたような気になって、ちょっと落ち込んだ葛葉に、聖は笑いかけた。
「里美にもよくわからないんじゃない。だって、うそついたって、わたしにはすぐばれちゃうのにさ」
 素敵な男の子の顔を見た人は、だれもいなかったし、お洒落な場所の話は、よく聞いてみると少し変だった。
 ユンジャなどは最初、真剣に怒っていたみたいだけど、そのうちに慣《な》れてしまったのか、笑いながら聞くようになった。
 不思議なのは、里美にはうそつきの癖以外には、小賢《こざか》しいところはなかったということ。自分が中心でなければ満足できない、というタイプでもなかったし、あまり、他人を嫌うこともないようだった。
 葛葉には少し、里美の気持ちがわかる。たぶん、里美は自分がどこか欠けているような気がしているんだろう。だから、なんとなく現実だけでは不安で、うそを重ねてしまうのだろう。
 その気持ちがわかるのは、葛葉だけではないと思う。聖もユンジャも桃子も、わかるからこそ、里美を責めたり、うそを追及したりはしないのだろう。
 里美のうそは、どこか妙にきらきらしていて、少しも聞くのが苦痛ではなかった。
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