なにが起こったのかわからない。頭が割れそうなくらい痛んで、なにも考えられなかった。
たぶん、なにか計算違いが起こったのだ。予想もできなかったなにかが。
その音楽は、まるで人を狂わせる怪音波のように聞こえた。
そんなことはあってはならない。あってはならないのだ。
息を弾《はず》ませて駆ける。途中、草に足を取られて、何度か転んでしまった。肘《ひじ》を擦《す》りむいて血が滲んだが、そんなことはもうどうだっていい。
彼は走った。なにが起こったのかたしかめるために。
急な坂を駆け昇る。心臓が破れそうだ。
坂を昇りきった彼は、呆然《ぼうぜん》として立ち止まった。
想像もしなかった光景がそこにあった。
華奢《きゃしゃ》な少女が立っていた。灰色のワンピースの裾をめくって、足を水道に差し出していた。
水滴が夕日を受けて赤くきらめいた。