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この島でいちばん高いところ12

时间: 2019-04-28    进入日语论坛
核心提示: 時間はすでに九時近くなっていた。もう一秒だって我慢できない、と里美は思った。我慢するしかないのだけれど。 本当なら、も
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 時間はすでに九時近くなっていた。もう一秒だって我慢できない、と里美は思った。我慢するしかないのだけれど。
 本当なら、もうとっくに船がきてもいい頃だ。だのに、海はただ真っ青なだけで、船の影ひとつないのだ。
「船は毎日出てるって言ってたよね」
 葛葉が独《ひと》り言のように言った。そう、たしかに宿の人もそう言ったし、船着き場の時刻表にも出ない日があるなんて書いていなかった。
 だのに、どうして船はこないのだろう。
 里美の緊張の糸は今にも切れそうだ。お腹は空きすぎて、なにがなんだかわからないし、この待合室はひどく暑い。昨日から着ているデニムのキャミソールは汗でべたべたして気持ちが悪いし、丸一日以上お風呂にも入っていない。
 頭ががんがんして、吐き気までしそうだ。
 聖はたしかにこう言った。
「ここ、なにかいるよ」
 そのことばを思い出しただけで、この暑さの中でもさあっと鳥肌が立つ。聖はもしかして、なにものかに連れ去られてしまったのではないのだろうか。
 少し前に読んだ怖い漫画でそういうのがあった。その土地は彼岸《ひがん》との境目で、どこからかぬうっと白い手が伸びてきて、少女たちをさらってしまうのだ。
 自分で思い出しておいて、里美は泣きたい気持ちになった。
「こなきゃよかった……」
 つぶやいて鼻を鳴らす。もしかしたら、里美たちは異次元に迷い込んでしまったのかもしれない。現実の島では、船もきて、釣り人たちが島にやってきているのに、時空を超えてしまった里美たちには見えないし、感じられないのかもしれない。
 桃子が口を開いた。
「もしかして、今日だけなにかの問題があって船が出ないのかも」
「じゃあ、あと丸一日、ここで待つってこと?」
 ユンジャがそう言うのを聞きながら、里美はスカートを握りしめた。あと一日も待てそうにない。空腹だってひどいし、なによりも精神的にもう限界だ。
 せめて、聖が一緒にいれば、これほど恐ろしくはなかっただろうに。
「聖、どうしちゃったんだろう」
 つぶやくと、我慢できないように、ユンジャが立ち上がった。
「わたし、もう一度探してくる!」
 そう言って出て行こうとするのを葛葉は止める。
「ひとりじゃ危ないよ」
「じゃあ、だれか付いてきて。船を待つ組と、探すのと二人ずつ分かれよう」
 一呼吸置いて、桃子が頷いた。
「じゃあ、わたしが一緒に行くわ」
 桃子とユンジャは連れだって待合室を出て行った。
 待合室には里美と葛葉のふたりだけが残された。
「ねえ、里美。里美はテスト勉強しているとき、なに考えているの?」
 唐突に葛葉が聞いた。
「テスト勉強しているときって……別に」
「わたしね。テスト勉強しているとき、いつも、テストが終わったらやる、楽しいことを考えているの。そうしたら、今はつらくても頑張ろうっていう気になるでしょう」
 里美はやっと、葛葉がなにを言おうとしているのか理解した。
「だから、帰ったらなにをしようか考えようよ。とても楽しいことをしようよ」
 里美は少し考えてから言った。
「ベリーのパフェを食べに行きたい」
 葛葉も言う。
「わたしはシュークリームを三つくらい食べてやる」
「ダイエットなんか忘れるよね」
「もちろん!」
「カラオケも行こうよ。カラオケマラソン。五時間くらい歌いまくるの」
「わたしは貯金を下ろそうかな。こないだ見つけたあのスリップドレスを買う。売れ切れていないといいな」
「ピアスを開けてみたい。校則では禁止されているけど、もうそんなことどうでもいいや」
 ふと、ことばがとぎれる。いくら楽しいことを並べてみせても、その間から、なにかが忍び込んでくるみたいだ。
 里美はラジカセに手を伸ばした。
「音楽かけようか」
 葛葉ははっと顔を上げた。
「それより、ラジオ聞こうよ。もしかして、なにか重要なニュースがやっているかもしれないよ」
「台風が近づいているから、船が出ない、とか?」
「そう。それってありえそうじゃない?」
 里美はラジカセのスイッチを、AMラジオに切り替えた。つまみを動かしながら、音のはっきり聞こえる場所を探る。
 やがて、ラジオからとぎれとぎれの音が聞こえだした。
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