ふたりともほとんど口をきかなかった。なにか重苦しい沈黙がふたりの間を覆っていた。
ユンジャは思った。桃子が相手だと、不安を隠す必要はない。里美や葛葉が一緒のときには、無理に喋ったり、明るい声を出したりしていたけれど、桃子とふたりになると、とたんにそんな気も失《う》せた。
「ねえ、ユンジャ」
桃子は急にユンジャを呼んだ。
「なあに?」
「聖のことどう思う?」
ユンジャはしばらく考えた。きっと無事だよ、そう言うのはたやすい。でも。
「わたし、この島にはほかにだれかいるような気がする」
ユンジャが口を開く前に、桃子はそう言った。ユンジャは息を詰めた。桃子はどうやら本音で話したがっているようだ。
「じゃあ、その人が聖を連れ去ったということ?」
桃子は頷いてから、目を伏せた。
「こんなこと言ってごめん」
「ううん。でも、里美や葛葉には話せないね」
もし、聖が連れ去られたのだとしたら、その目的はたぶんお金や恨《うら》みなんかじゃない。そう思ってユンジャは身震いした。
そんなことは望んでいないのに、ユンジャたちの年頃の女の子たちには、家畜めいた価値がつけられることがある。そのほとんどは、大人の男たちによってだ。彼らは女の子たちがなにを考えていようが、まったく気にしない。たかが皮一枚の表面だけが大事なのだ。
ユンジャはあることに気づいて愕然《がくぜん》とした。
だとしたら、聖はもう生きていないかもしれないのだ。
桃子がいきなり、ユンジャの腕をきつくつかんだ。
「どうしたの!」
「静かにして」
桃子はそう言って、視線の先を指さした。林の先になにやら青い物がある。半円形のそれはテントのように見えた。
ユンジャは息を呑《の》んだ。
「正解だったみたいね。桃子」
「どうする?」
どうすると言われても、この先に進む勇気などない。そこにいるのは変質者で、もしかしたら殺人者かもしれないのだ。
「戻って、四人で相談しよう」
桃子も頷いた。ふたりで草を踏んで走り出す。恐怖に追い立てられるように、走り続け、砂浜まで出てやっと足を止めた。
桃子がはあはあと息を切らす。
「なんで、あんなところにテントを張っているの?」
「キャンプ……というわけでもなさそうね」
だいたい、ひとりなのか複数なのかもわからない。テントの大きさから言って、それほど多人数のわけはないけど。
「ユンジャ! 桃子!」
名前を呼ばれて振り返ると、砂浜を葛葉が駆けてくるのが見えた。
「どうしたの?」
こちらからも走り寄る。葛葉は足を止めると、荒い息をついた。
「ラジオを聞いたの。そしたら……」
「どうしたの?」
「連絡船が原因不明の海難事故にあったって。十人以上死者が出ていて……まだ、行方不明の人もいるって……」
ユンジャと桃子は顔を見合わせた。