里美はぼんやりと考えた。いつも、現実だけではつまらないと思っていた。ドラマや少女小説や、漫画みたいなことは、どうしてわたしの身には起こらないのだろうか、と考えていた。
だから、うそをついた。いや、うそだなんて思ったことはない。里美の口から出た瞬間、それはまぎれもなく現実だった。里美にはそうとしか思えなかった。
ただ、それはとても壊れやすかった。本当の現実は、どんなことがあっても壊れたり、消えたりしないのに、里美が作り出した現実はあっという間に、色褪《いろあ》せたりつまらなくなってしまうのだ。知識としてだけ知っている、ウスバカゲロウの命のように。
今、自分に起こっていることは、本当に現実なのだろうか、と里美は考えた。時間がたって色褪せたりはしないのだろうか。
まるで、漫画みたいだ。だれもいない島に置き去りにされ、くるはずの船はこない。そうして友だちはひとり、行方不明だ。
もしこの先、ずっと迎えがこなかったとしたら、自分たちはどうするのだろうか。魚を捕まえ、火をおこし、丸太を切って筏《いかだ》を作ったりするのだろうか。
そう思うと、少しだけ笑みが洩《も》れた。ユンジャは張り切るだろう。葛葉は相変わらずもたもたしながらも、ユンジャの言うとおりに動いて、そうして桃子もいつも通り、飄々《ひょうひょう》としているのだろう。
里美ははっと顔を上げた。
「聖?」
答えは返ってこない。でも、なんとなく聖が呼んでいる気がした。
里美はサンダルに足を差し入れて、立ち上がった。待合室の外に出る。
船着き場にはだれもいない。船の影もない。この先いったいどうなるのだろう。
人の気配を感じて、里美は振り返った。
なにものかが、里美に向かって走ってきた。両手で大きなスコップを持ち上げて。