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日本史の叛逆者09

时间: 2019-05-24    进入日语论坛
核心提示:     9 主《あるじ》を失った勝龍寺《しようりゆうじ》城は、まるで開城同然に呆気《あつけ》なく陥《お》ちた。 最後ま
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 主《あるじ》を失った勝龍寺《しようりゆうじ》城は、まるで開城同然に呆気《あつけ》なく陥《お》ちた。
 最後まで光秀《みつひで》に忠節を尽くそうと考えていた兵たちも、肝心の光秀が自分たちを捨てて逃げ出したと聞けば、もはや戦う気力はなかったのである。
 つぎつぎに投降する者が相次ぎ、城は自落《じらく》した。
 信長《のぶなが》は、とりあえず勝龍寺城に入ると、景隆《かげたか》からの光秀|捕縛《ほばく》の知らせを受けた。
「でかした」
 信長は膝《ひざ》を叩《たた》いて、ただちに森蘭丸《もりらんまる》に命じ、黄金十枚を持ってこさせて使者に与えた。
「これを景隆にとらす。光秀はただちに、この勝龍寺城に連れて参れ。それから、重臣どもは厳重に押し込めておくように伝えよ」
「かしこまってござる」
 使者は押し戴《いただ》いて黄金を受け、瀬田《せた》城に戻った。
 瀬田城から光秀らが連行されたのは、翌日のことであった。
 信長は、あえて光秀を曝《さら》し者にはせず、夜陰《やいん》に乗じて光秀を馬に乗せ、周りを警護の侍《さむらい》数十騎で固めて勝龍寺城に入らせた。
 そして、縛めた光秀を城中の大広間に引き据《す》えさせ、人払いをして、ただひとり光秀と対面した。
 光秀は、それでも信長が入ってくると目を開き、傲然《ごうぜん》として信長を見つめた。
「さぞ、悔しかろうな」
 信長は言った。
 光秀は、あぐらをかいたまま縛められた胸を張り、信長を見つめて、
「なにゆえの生け捕りでござる。もはや、この命には用がないはず。早《はよ》う、お斬《き》りなされ」
 と言った。
 信長は首を振り、
「そのほうを生け捕りにしたのは、恥をかかせるためではない。どうしても一つ聞きたいことがあったのだ」
「聞きたいこととは?」
 光秀は、いぶかしげな顔をした。
「そのほう、なぜ余《よ》に反逆をした?」
 信長は言った。
「そのことでござるか」
 光秀は首を振り、
「もはや言っても詮《せん》ないこと。すべては終わったのでござる」
「いや、余は知りたい」
 信長は身を乗り出すと、光秀と向かい合わせにどっかりと腰をおろし、
「余は、そのほうに悪《あ》しゅうした覚えは何もない。旅浪人の身から大身《たいしん》の大名に取り立て、褒美《ほうび》もつねづね与えておる。何が不満なのだ? 何が不満で、このような大それたことを考えたのか?」
「拙者とて、この乱世に生まれた一人の男子《おのこ》でござる。隙《すき》あらば、天下を取ろうと考えるのは当然のこと」
「何を申す」
 信長はせせら笑って、
「そのようなこととはもっとも縁遠いのが、明智《あけち》日向守《ひゆうがのかみ》光秀という男ではないか。余が、そのことを知らぬとでも思っているのか。光秀よ。ひょっとして、だれかそのほうを唆《そそのか》した者がおるのではないか?」
「唆した? はて、だれが拙者を唆したと仰せられるのでござるか?」
 光秀はとぼけた。
「知れたことよ。京の長袖《ちようしゆう》(公家《くげ》)どもだ」
「京の?」
 光秀は慌てて首を振り、
「いやいや、そのようなことはいっさいござりませぬ。この謀反《むほん》は、あくまで拙者ひとりの思い立ちによるもの」
「そうかな? ならば、あえてもう一度たずねるが、なぜこのようなことをなした? 余は、そのほうに恩を与えこそすれ、恨みなどは買《こ》うておらぬはずだが」
「はははっ」
 と光秀は突然、笑いだした。それはとても、すべての兵を失い、敗将として敵の前に引き据えられた男のものとは思えぬほど、昂然《こうぜん》たる高笑いであった。
「何がおかしい」
 信長は、さすがにむっとして光秀を見つめた。
「殿は、いや上様は、何もわかっておられぬ」
「なに?」
「人の心というものが、まったくわかっておられぬ」
「————」
「おわかりになりませぬか、上様」
 光秀はからかうように、
「人の心とは、褒美をもらえればよいというものではない。金をもらえばよいというものではない。もしそれでよければ、荒木《あらき》殿も謀反など起こさなかったはず」
 光秀は、ずばりと言った。
 荒木|村重《むらしげ》のことである。
 荒木村重は、もう三年ほど前、信長に反旗を翻《ひるがえ》した。別に、なんの落ち度があったわけでもなければ、信長が村重に対してとくに悪いことをしたわけでもない。
 だが、村重は勃然《ぼつぜん》たる不安の中から突然、信長に反旗を翻し、そして一族皆殺しにされたのであった。
「人は、牛馬ではござらぬ」
 光秀は、冷たく信長を見返して、
「人には人の心というものがござりまする。いや、牛馬にすらある。ただ餌《えさ》を与え、鞭《むち》打ち、働け働けと言っても、人は心を踏みにじられれば怒るものでござりまする」
「余が、いつそのほうの心を踏みにじった?」
「おわかりになりませぬか。上様は生まれてからこの方、若様としてお育ちであるがゆえに、下々《しもじも》の心はおわかりにならぬとみえますな」
「この際だ、言いたいことがあったら、申したらどうか」
「では申し上げますが、拙者はあなた様に命じられ、長年の間、四国の長宗我部《ちようそかべ》との友誼《ゆうぎ》を深めるために、さまざまな腐心をいたして参りました。拙者の家臣、斎藤《さいとう》内蔵助《くらのすけ》の妹を拙者の養女分ということにいたしまして、長宗我部の跡継ぎに嫁がせたのも、そのためでござる。いずれは織田《おだ》家と長宗我部家は、ともに力を合わせて天下をめざすものと思い、拙者も拙者の家臣も、心を込めて長宗我部との友誼を築き上げてきたつもりでござります。ところが上様は、このところ長宗我部を敵となさり、その敵である三好《みよし》家にひとかたならぬお肩入れをされ、今度は長宗我部を討つとまで仰せられた。これは、我らの積年の努力を踏みにじるものでござりまするぞ」
 信長は黙って聞いていた。この際、光秀に言いたいことを徹底的に言わせようと思っていたのである。
 光秀は続けた。
「長宗我部が討たれるということは、我が家臣、斎藤内蔵助の妹も殺されるということでござりまする。あなた様は、そのことを一度でもお考えになったことがござりますか。せめて、一言『すまぬ』とのお言葉があればまだしも、いきなり『長宗我部は討つ』。なんのねぎらいも、詫《わ》びの言葉もない。こんなことが許されていいものでござりましょうか」
「光秀。余は、そのほうの主人だぞ」
 信長は言った。
「わかっており申す」
 光秀は答えた。
「しかし、世の中にはたとえ主人といえども、家臣の心を踏みにじってはならぬ、という掟《おきて》があるのでござりまする。それをないがしろにする者は、いずれ背《そむ》かれる。荒木殿がそうであり、この拙者がそうでござる。このまま続けば、つぎはまただれかが背きましょう。佐久間《さくま》殿のことも、そうでござる。佐久間殿は、織田家|譜代《ふだい》の臣ではござりませぬか。それを、わずかな落ち度で所領をすべて召し上げ、高野山《こうやさん》に追放なさるとは、あまりにひどい仕打ちでござりまする」
「わずかな落ち度ではない」
 信長は反論した。
「信盛《のぶもり》めは、本願寺《ほんがんじ》攻めの総大将を任じられたにもかかわらず、ほとんど何もせず無為《むい》に時を過ごした。それゆえ、余は怒ったのだ」
「お怒りはごもっともかもしれませぬが、人を罰するには罰し方というものがござりまする。あの過酷な仕打ちは、我らすべての肝《きも》を冷やしました」
「肝を冷やせば、人は人に従うものであろう」
「いえ、そうではござりませぬ。それは憎しみの心を生み、いずれは謀反を企《たくら》む心を育てるのでござります」
「わかった」
 信長は立ち上がった。
「言いたいことは、それだけか」
「それだけでござりまする」
 光秀は、そう言って目を閉じた。
「では、あらためて聞こう。いま一度、前非《ぜんぴ》を悔いて余に仕える気はないか」
 光秀は、はっとして信長を見た。
「どうじゃ」
 信長は、まじめな顔をしていた。
「いままでの罪を、お許しくださると仰せられるのか」
「そうだ」
 信長は、短く言った。光秀は一瞬、戸惑《とまど》うような顔をしたが、やがて大きく首を振り、
「遅うござった」
 と、ぽつりと言った。
「遅い?」
 信長は、首をかしげた。
「左様、遅うござった。もっと早く、そのようなお言葉が聞けたら、この光秀も謀反など起こさなかったことでござりましょう」
「光秀、もう一度考えてみよ。坂本にいる妻子はどうする? そのほうが前非を悔いて、余に仕えれば、家族すべても許されるのだぞ」
 光秀は、やはり首を振った。
「もはや、後戻りできぬところにきてしまっておりまする。謀反人として、拙者は首を刎《は》ねられまする。それが世の理《ことわり》と申すもの。なにとぞ、これ以上のご厚情はご無用に願いたい」
 光秀はそう言って、ふたたび目を閉じた。
「やむを得まい。それでは、天下の謀反人として堂々と死ぬがよい」
 信長は、その場を去った。
 十日後、近江坂本城は駆けつけた徳川家康《とくがわいえやす》の援軍もあり、呆気《あつけ》なく落城した。城将、明智|秀満《ひでみつ》は、光秀の妻子を自らの手で刺し殺した後、城に火をかけて自害した。
 そして、すべてが終わったところで、信長は京において、光秀を公開の場で処刑した。斎藤内蔵助、溝尾庄兵衛《みぞおしようべえ》らもすべて斬首《ざんしゆ》され、その首は京の粟田口《あわたぐち》に晒《さら》された。これによって信長は、明智光秀という織田軍団の中でもっとも有能な将のひとりを失ったのである。
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