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日本史の叛逆者18

时间: 2019-05-24    进入日语论坛
核心提示:     18 織田信長《おだのぶなが》は、あいかわらず京《きよう》の本能寺《ほんのうじ》にあった。 信長にとって、ある意
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 織田信長《おだのぶなが》は、あいかわらず京《きよう》の本能寺《ほんのうじ》にあった。
 信長にとって、ある意味でもっとも縁起《えんぎ》の悪い場所とも言える。この本能寺に居座りつづけるところが、まさに信長であった。
 家臣一同も、
「殿は、本当に変わっておられる」
 というのが、一致した評価であった。
 もっとも、実は信長に対する呼称は、もはや「殿」でも「御屋形《おやかた》様」でもなかった。正式には、「殿下」と呼ばなければならないのである。
 関白《かんぱく》は、天皇の息子である皇太子よりは格下だが、二男以下の親王よりは格が高い。それゆえに、その呼称は、「閣下」でも「上様」でもなく、「殿下」でなければならなかった。
 信長は、側近の森蘭丸《もりらんまる》を通じて、この呼称の変更を家臣に周知徹底《しゆうちてつてい》させていた。新しい世の中がきたことを知らせるためである。
「殿下」
 その蘭丸が、信長にたずねた。
「なんだ?」
 信長は近ごろ、庭を見ていることが多い。その庭も、もとは本堂があった焼け野原の部分である。焼け焦げた残骸《ざんがい》を取りのけたあと、信長は急いで仮屋をつくらせた。だが、その配置は、かつての伽藍《がらん》とは変わっている。
 信長は、ときどき日課のように、その庭を見つめながら、沈思黙考《ちんしもつこう》していることがあった。蘭丸は、ひょっとしたら、ここで失われた茶器のことを思っているのかと考えた。
 信長は、日本一の茶器収集家である。
 茶道というものを、この国の新しい文化として位置づけることを欲し、そしてその文化の第一人者となろうとした信長は、いわゆる名物狩りを行った。
 名物狩りとは、茶に関する道具、たとえば茶杓《ちやしやく》であるとか、茶入れであるとか、茶壺《ちやつぼ》であるとか、茶碗《ちやわん》であるとか、また床の間にかける掛《か》け軸《じく》といったようなものの名品を、金と権力に任せて集めることである。
 一時は、茶器の中でも名品中の名品のほぼ八割が、信長の手中に帰したことがあった。
 そして信長は、あの忘れもしない六月一日の夜、京の堂上公家《どうじようくげ》たちを招いて、その茶器を見せつけ、盛大な茶会を開いたのである。
 それは、信長がこれから、この国の文化上の支配者にもなるという、大きな示威《じい》行為であった。
 だが、その得意の絶頂にあるところで、明智光秀《あけちみつひで》の奇襲に遭《あ》ったのである。
(あのとき、高柳左近《たかやなぎさこん》の注進《ちゆうしん》がなければ、いまごろ、茶器とともに、この身は滅びていたのだ)
 たしかに信長は、そう思って庭を見ていることはよくあった。だが、もの思いにふけっているのでもなければ、ましてや茶器を惜しんでいるのでもない。
 信長の構想は、つねに未来を向いていた。
「殿下。小田原《おだわら》へ向かった勧修寺《かじゆうじ》殿の首尾《しゆび》は、いかがでござりましょう?」
 蘭丸は、そのことを話題にした。
 信長は、にやりと笑うと、
「お蘭。いまごろ大納言《だいなごん》は、何を北条《ほうじよう》に要求していると思うか?」
「はっ、それは——」
 と、蘭丸は一瞬、首をかしげ、ただちに答えた。
「主上《おかみ》の命令に従い、我が織田家への軍門に降《くだ》ることでござりましょう」
「それだけか?」
「は?」
 蘭丸は、信長を見上げた。
 信長の顔には、子供のころから少しも変わらない、悪童《あくどう》のような表情が浮かんでいた。信長が、この笑みを浮かべるときは、心中よほどの快事があるときなのである。
「ただ降参させるだけではつまらぬし、実入りもない。当然、要求すべきものがあるだろう?」
「領土の割譲《かつじよう》でござりますか?」
 信長はうなずくと、
「お蘭。そちが使者だったら、どのように言う? 申してみよ」
「はっ。北条殿は相模《さがみ》という大国と、伊豆《いず》という小国の二カ国の持ち主でござりますゆえ、私ならば、伊豆をよこせと」
「それではだめだ」
 信長は、ぴしゃりと言った。
「なぜでござります?」
「そちもまだまだ若いのう。伊豆をよこせと言えば、初めから伊豆をよこせ、よこさぬが話のもとになる。そして、もしうまくいったとしても、伊豆が手に入るだけ。失敗すれば、伊豆一カ国どころか、せいぜい半国、あるいは一都ということにもなってしまう。だから、大納言はいまごろ、相模をよこせと言っているはずだ」
「相模を?」
 蘭丸は驚いた。
 それは、まるで母屋《おもや》を明け渡して、納屋《なや》に引っ込めというような、過大な要求ではないか。
「それでよいのだ」
 信長は言った。
「余《よ》も最初から、相模が取れるとは思ってはおらぬ。だが、まず相手の予想もしなかった大きな要求を出して、相手の気をくじく。相手は、なんとか必死にその要求だけはかわそうと評定《ひようじよう》を重ねる。そして、あげくの果ては、こうなるであろうな。『相模はとても。ただし、伊豆一国にてお許し願いたい』とな。つまり、これが話の落としどころというやつよ」
「なるほど。そういうものでござりますか」
「お蘭。覚えておけ。交渉というものは、そのようにやるものじゃ。初めは、相手がとても受け入れられぬ要求を出し、慌てさせ、そして頃合いを見計らって、少し下げてやる。その下げたところが、本来の狙《ねら》いなのだ」
 信長は笑った。
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