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日本史の叛逆者36

时间: 2019-05-24    进入日语论坛
核心提示:     二 余豊璋の館から中大兄は帰る道すがら、馬上で今後のことを考えていた。(矢は放たれたのだ) 中大兄は思う。 も
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      二
 
 余豊璋の館から中大兄は帰る道すがら、馬上で今後のことを考えていた。
(矢は放たれたのだ)
 中大兄は思う。
 もう、あと戻りはきかない。
 だが、あの強大な蘇我一族を倒せるものかどうか。
 一門の棟梁である入鹿《いるか》と、その父の蝦夷《えみし》、この二人を倒せばいいというものではない。
 蘇我一族は私軍ともいうべき兵を多数擁している。
 理想としては、この軍隊と堂々と対決して、打ち破るのがいい。そうすれば、蘇我の勢力を、この国から完全に一掃出来る。
 しかし、それは難しい。
 中大兄は朝廷の官ではない。ただ、現天皇の息子であるという立場だ。朝廷軍を動かす権限はないのである。
 朝廷軍を動かすには、軍の有力者を味方につけなければならない。
(だが、もし、その男が裏切ったら)
 中大兄はただちに殺されるだろう。
 母が天皇であることも、何の助けにもならない。
 中大兄は一族皆殺しにあい、入鹿はけろりとしてそのことを天皇に報告するに違いない。
 背筋に冷たいものが走った。
 そうならない、とは断言出来ないのである。
 蘇我一族の専横は憎い、許せない。
 だが、そのことを単に憎んでいた時と、それを倒すと誓った時とでは、こうも違うものか。
 今、中大兄の胸中にあるのは、大いなる恐れである。
 本当は、戻れるものなら戻りたい、とすら思い始めている。
 しかし、もう豊璋王子にしゃべってしまったのだ。もちろん王子は信用出来る。だが、一度口にしたことは天知る地知る、仮に実行しなくてもいつかは知られる。
(やはり、やるしかない)
 中大兄は蒼白になっていた。
 従者の豊人《とよひと》が、それを見咎めた。
「皇子様、御気分でも悪いので——」
 馬の口取をしながら、豊人は振り返り、馬上の中大兄を仰いだ。
「いや——」
 中大兄は首を振ると、気を取り直してあたりの風景を見た。
 飛鳥の野には色とりどりの花が咲いている。
 あちこちで鳥の声も聞こえる。
「菜摘《なつ》みの季節だな」
 中大兄は血腥《ちなまぐさ》いことから離れたかった。
「まことに」
 豊人はゆっくりと進んで行く。
 春の野に出て、菜を摘むことは、この季節の大きな楽しみなのである。
 別れ道にさしかかった。
 左へ行けば飛鳥宮である。
「右だ」
 中大兄は指示した。
「どちらへ?」
「いいから行け」
 豊人は、きょうの皇子のようすは、いつになくおかしいと思った。
 中大兄は人当りがいい。従者や下人に対しても、頭ごなしに物を言うことは少ない。その中大兄がそう言ったので、豊人は不思議に思ったのである。
 実のところ、中大兄はどこへ行くべきか、まだ決めていなかった。
 こちらへ行けば、協力を求めねばならない人物の館はいくつかある。
 しかし、もし、そういうところへ行くならば、今はまずいという気もする。
 途中で、どんな人物に会うかわからない。その中には、蘇我の息のかかった者もいるかもしれない。
(こちらへ行けば、中臣鎌子《なかとみのかまこ》の館もあるな)
 中大兄はふとそれに気が付いた。
 余計にまずい。
 鎌子との結び付きは、まだ隠しておきたい。
 それが、中大兄の「革命」を成功させる道でもある。
 しかし、このままこの道を進めば、人は中大兄が鎌子の館をたずねたと噂するかもしれない。
(もし、それが入鹿の耳に入れば)
 中大兄は行き交う人が、すべて入鹿の息のかかった密偵のように思えてきた。
 市《いち》へ向かう物売りも、あたりの農民も、このわずかな供を連れた平服の貴人が、まさか中大兄だとは思わないだろう。
 しかし、顔を知っている者がいないとは限らないのである。
 向うから、従者一人を連れた役人が歩いてきた。
 中大兄をみとめると、びっくりして道の隅へ寄り、額を地にこすりつけて拝礼した。
「——しのびだ。略礼でよい、と申してやれ」
 中大兄は騎馬で付き従っている家来に言った。家来は馬を寄せてその旨を伝えた。
 役人は立ち上がって、顔をやや伏せた。
 貴人と視線を合わさないのが礼儀なのである。
 中大兄は舌打ちした。
 せっかく目立たぬよう、三騎と従者一人を連れて出てきたのに、あんな拝礼をされたら身分がわかってしまう。
 現に、道のあちこちで、ささやき声が聞こえた。
「あれは誰」「中大兄皇子だ」とでも言っているのであろう。
「皇子様、いかが致しましょう」
 豊人が聞いた。
「うむ」
 やはり軽率にこんなところまで来るべきではなかった。今は目立たぬよう目立たぬよう、行動すべき時なのだ。
「——あの、皇子様」
 豊人が遠慮がちに言った。
「何だ」
「漢殿様のお館をたずねられてはいかがでしょうか」
「あやつの?」
 中大兄は不快な顔をした。中大兄は漢殿を兄とも弟とも認めていない。
「なぜ、そんなことを言う?」
 中大兄は不思議に思って聞いた。
「漢殿様のお館をたずねられるのなら、誰も不審に思いますまい」
 豊人は答えた。
 そうか、それも一案だな、と中大兄は思い直した。
 顔も見たくない男だが、その血のつながりは周知の事実である。
 ここで、あの男をたずねれば、他の場所に行ったのでないと証明できる。
「よし、参ろう」
 中大兄は決断した。
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