脱走者が相次いでいた。
徳陀は、「前非を悔いて投降するなら許す」と、繰り返し呼びかけていた。
味方は、あっという間に半分に減り、さらに半分に減り、気が付くと数えるほどしかいなかった。
(これはいかん)
蝦夷は覚悟を決めざるを得なかった。
残った一族を呼び集めて、最後の宴を催した。
誰も笑う者はいない。
「猿手」
蝦夷は最後まで残っていた間者の頭を呼びつけた。
「御前《おんまえ》に——」
「見ての通りだ。大臣家もこれまでよ。われらは自害する」
「大殿様」
猿手の顔が悲しみにゆがんだ。
「——申しわけもござりませぬ。もとはと言えば大臣様をむざむざ討たせた、この猿手めの油断」
「言うな。もう済んだことだ」
蝦夷は淡々とした口調で、
「最後の下知じゃ。わが首を敵に渡すな。われらの自害を見届け、館に火を放て」
「——」
「そのあとは、勝手にせよ。——よいな」
「ははっ」
猿手は大地に平伏した。
その場を離れようとした蝦夷は、ふと振り返った。
「もし、死に損ねた者がおれば、とどめを刺してくれ。この、わしもだぞ」
そう言って蝦夷は館の中に消えた。
猿手は声をあげて哭《な》いた。