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日本史の叛逆者84

时间: 2019-05-24    进入日语论坛
核心提示:「母上、それはなりませぬ」 中大兄は不快感を露わにして言った。「なぜです」 前帝《さきのみかど》である母は不審の表情を見
(单词翻译:双击或拖选)
「母上、それはなりませぬ」
 中大兄は不快感を露わにして言った。
「なぜです」
 前帝《さきのみかど》である母は不審の表情を見せた。
「言うまでもありません。あの者は、異国《とつくに》の血を引いております」
 漢殿《あやどの》を皇族に列するか、という問題である。
 難波の都を捨てるにあたって、中大兄は母に懇願した。
 母は中大兄には甘い。その願いなら大方のことは聞き届ける。
 今回のことは、言わば大きな貸しである。
 それがあるから、母は再び漢殿のことを持ち出したのである。
 しかし、にべもなく拒否された。
 母はむっとして、
「そなたはそう言うが、これは皇后の願いでもあるのですよ」
 娘であり、中大兄の妹でもある間人皇后は、あの一件以来、漢殿の味方だった。
 だが、中大兄はそのこと自体面白くない。
「だめです」
 中大兄は意固地になった。
 あとは母がいくら説得しても、中大兄は首を縦に振らなかった。
 大きな溜息をついて、ついに母はあきらめた。
「わかりました。では、その件は無かったことにしましょう」
「ありがとうございます」
「では、聞きますが、肝心なことはどうします」
 母は改めて厳しい視線を中大兄に向けた。
「肝心のことと申しますと?」
「決まっているでしょう。都が二つに分かれ、帝が有名無実のものとなった。このまま放っておくのですか」
「それは——」
「異国の使者も困るでしょうね。どちらへ使いを送るべきか。難波か、それともこの飛鳥か」
「飛鳥です。決まっている」
 中大兄は叫んだ。
 母はたしなめるように、
「難波には帝がいるのですよ、力がないとはいえ、帝は帝です」
「——」
「もし、帝が、われらをこころよく思っていない者共と結んだら、厄介なことになります。この国は二つに割れる」
「そんな者共がおりましょうか」
 中大兄は楽観していた。
 もし、そんな連中がいるなら、難波の帝のもとには、もっと大勢の家臣が残ったはずだ。
「いや」
 母は首を振った。
「人には、面従腹背ということがあるのですよ。そなたも、この国の天津日継《あまつひつぎ》となる身なら、こういう言葉ぐらい知っておきなさい」
「面従腹背——」
 母は意外に唐《から》の国の言葉を知っている。それは漢殿の父である新羅の王族から学んだものだろう。
 そう思うと、中大兄はその忠告を率直な気持で聞く気になれなかった。
「とにかく、何か方策を考えなさい。このままではいけません」
 母は最後に念を押した。
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