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日本史の叛逆者114

时间: 2019-05-24    进入日语论坛
核心提示:「負けただと」 中大兄《なかのおおえ》の顔から血が引いていった。「はい」 使者の鵜足《うたり》は目を伏せてうなずいた。「
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 「負けただと」
 中大兄《なかのおおえ》の顔から血が引いていった。
「——はい」
 使者の鵜足《うたり》は目を伏せてうなずいた。
「それで、どのように負けたのだ」
 中大兄は、思わず玉座から腰を浮かせて言った。
「白馬江河口の白村江にて、唐と新羅の船団に待伏せを受けまして——」
 鵜足は、戦の状況を逐一報告した。
 中大兄は、なかば茫然として、その言葉を聞いていた。
「——それで、阿倍比羅夫《あべのひらふ》、阿曇《あずみの》比羅夫はどうした?」
「無事でございます。——大海人《おおあま》皇子様も」
「きゃつもか——」
 中大兄は吐き捨てるように、
「役に立たぬ男だ」
 と、付け加えた。
「——皆様も、そろそろ筑紫《つくし》に着く頃でございましょう」
 鵜足が言うと、中大兄は怒りを鎮めて言った。
「苦労であった。下がって休め」
「ははっ」
 鵜足が退出すると、中大兄は中臣鎌子《なかとみのかまこ》を呼んだ。
 鎌子は事態を察し、緊張した面持ちで入ってきた。
 中大兄は黙って鎌子を見つめた。
「何やら良からぬ事態が出来《しゆつたい》致しましたようで——」
 鎌子は言った。
「その通りだ」
 中大兄は、鵜足の報告の内容をかいつまんで話した。
 鎌子は顔色一つ変えなかった。
「それで、このことを他の者にお漏らしになりましたか——」
 鎌子が聞いたのは、そのことである。
「いや、そちだけだ」
 中大兄は言った。
 その点に抜かりはなかった。
 使者のただならぬ様子から、異変を見てとった中大兄は、近臣すらさけて単独で接見したのである。
「それは、よろしゅうございました」
 鎌子は一礼して、
「まず、今度の戦《いくさ》、当方に利がなかったことを極力伏せることに致しましょう。兵が筑紫に戻れば人の口に戸は立てられませぬが、それにしても噂が伝わるのは、まだまだ時がかかりましょう。その間、国を固めることでございます」
「何を為《な》すべきか?」
「さしずめ、城をいくつか造らねばなりませぬな」
「どこに造る?」
「対馬《つしま》、壱岐《いき》そして筑紫でございます」
 それは、唐の侵攻に備えてのものだということは、中大兄も充分にわかっている。
「やはり来るか」
「今度の敗戦で、百済はまったく滅び去ったと申せましょう。あとは高句麗が、どれだけ持ちこたえられるかでございましょうな」
「そのあとはわが国か——」
 中大兄は唇を噛みしめた。
「いずれにせよ、時を稼ぐことでございましょう。城を造り、兵を養うためには、時がかかります。そこで、この鎌子に一つ案がございます」
「何だ?」
 中大兄は身を乗り出した。
 鎌子がこういう言い方をする時は、必ず名案があるものだ。
「百済|人《びと》をお使いなされませ」
「百済人?」
「はい、このたび国を失った者どもでございます。かの者たちには帰る国とてございませぬ。百済人の中には、兵もおれば、城造りの巧みな者、あるいは作物を育てるのに巧みな者もおりましょう。わが国のために、役立てることができるはずでございます」
「なるほど」
 中大兄は感心した。
 百済の遺民が多数日本に押し寄せてくることは必至だが、その処理をどうすべきかという観点でしか、中大兄は考えていなかった。
 難民を積極的に利用するということは、思案の外にあったのである。
(さすが、鎌子)
 中大兄は改めて鎌子を見直した。
「——さらに、もう一つお考え頂きたく存じますことが」
 鎌子は遠慮がちに言った。
「何か」
 中大兄はうながした。
「——」
 鎌子は珍しく言い淀んだ。
「どうした、早く言え」
「この際、新羅の国とも、話をつけておいてはいかがでしょう」
「なに」
 中大兄は目をむいた。
「使者を出すのでございます」
「なぜ、左様なことをせねばならんのか」
 声が既に怒っていた。
 鎌子はひるんだが、それでも言った。
「新羅とは、話し合う道を残しておかねばなりませぬ」
「鎌子、そちは頭がおかしくなったのではないか」
 中大兄は怒りを押えて、
「新羅は我等にとって不倶戴天の敵ぞ」
「いえ、決して狂うてはおりませぬ」
「では、なぜ、たわけたことを申す」
「新羅と唐はいずれ仲違いを致します」
 鎌子は必死に訴えた。
「なに」
 中大兄は意外な顔をした。
「唐が新羅と手を組んだのは、韓《から》の国すべてを手中に収めるために、新羅を走狗《そうく》となすためでございます。既に百済が滅び、敵は高句麗のみとなりました。いずれ、高句麗も滅ぼせば、新羅は唐と獲物を争って、仲違いすることになりましょう」
「その勢いで、わが国を攻めるかもしれぬではないか」
 中大兄は言った。
「いえ、そもそも新羅には、わが国を攻めようという意図はありませぬ。唐と手を組んだのも、百済に攻められ亡国の危機に陥ったからでございます」
「だから、裏切り者だと言うのだ」
「でもございましょうが、本心から唐に屈してのことではありませぬ」
「そなたは新羅の国王か?」
 冷やかな口調で、嘲けるように中大兄は言った。
「いえ、とんでもない」
 鎌子は首を振った。
「ならば、なぜ新羅の心がわかるのか」
「——」
 誰にでも予想がつくことだ、とは言えなかった。そんなことを言ったら、中大兄はますます激高するに違いない。
 新羅が唐と共に高句麗を滅ぼしたとしても、その後、手を組んで日本まで攻めてくるとは思えない。
 もし、それをやれば、新羅はその日本遠征によって力を消耗させられ、結局は唐に漁夫の利をしめられることになるだろう。すなわち新羅滅亡である。
 そんなことを、新羅の指導者が許すはずがないのである。
 共通の敵である高句麗を滅ぼせば、唐と新羅は敵同士になる。
 その日に備えて、新羅との間に「友好」の道を確保しておく。もちろん、新羅も日本の使者をむげに追い返すはずがない。そういうことの読める人間が、新羅の宮中にもいるはずだからだ。
 顔に微笑を浮かべながら、相手の肚を探り合う、それどころか場合によっては、片手でなぐり合いながら、片手で握り合う——それが外交というものだ。
 だが、中大兄はそういう考え方を頭から認めようとしない。
「むしろ高句麗に使いを送るべきではないか」
「仰せの通り、送らねばなりません。しかし、新羅にも——」
「言うな」
 中大兄は怒鳴りつけた。
「ははっ」
 鎌子は首をすくめた。
「よいか、もう二度と言うな。余の目の黒いうちは、新羅と手を結ぶことはない」
 中大兄はきっぱりと言い切った。
(これは、だめだ)
 鎌子は絶望した。
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