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日本史の叛逆者116

时间: 2019-05-24    进入日语论坛
核心提示: 都が燃えていた。 宮廷も、兵舎も、何もかもが燃えている。 異国の軍が都を侵したのだ。 女は犯され、男は殺されている。 
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 都が燃えていた。
 宮廷も、兵舎も、何もかもが燃えている。
 異国の軍が都を侵したのだ。
 女は犯され、男は殺されている。
 逃げ場はなかった。
(どうした、わが兵はどこへ行ったのだ)
 中大兄は血走った目で、周囲を見回した。
 生きた兵はいない。屍《しかばね》ばかりである。
(こんなことがあっていいのか、こんなことが)
 中大兄は敵兵に捕らえられ、引ったてられた。
 唐の将軍がいる。
 その前に引き据えられた。
 ——おまえはこの国の王か
 と、将軍が言う。
 ——だとしたら、どうだと言うのだ
 中大兄は、昂然と顔を上げて言い返した。
 将軍は、銅像のような顔で、冷やかに中大兄を見下ろしていた。
 ——首をはねる
 将軍はおごそかに宣言した。
 ——待て、待ってくれ。首をはねるとは、どういうことか
 中大兄は絶叫した。
 
「いかがなされましたか」
 舎人《とねり》の声で目が覚めた。
 気が付くと、中大兄は寝台の上に半身を起こしたところだった。
 全身が汗でぐっしょりと濡れている。
(夢か)
 中大兄は荒い息を整えた。
 舎人が呆気《あつけ》にとられて、こちらを見ている。
「何でもない」
 中大兄は怒鳴った。
 あわてて舎人は拝礼した。
「もうよい、下がれ」
 だが、舎人は下がらなかった。
「大宰府《とおのみかど》より、鵜足が使者として参りました」
「何?」
 中大兄は寝台から下りた。
「それを早く申せ」
 ただちに着替えると、中大兄は鵜足を接見した。
 鵜足が来るのは、この前、敗戦を知らせに来て以来のことだ。
 もう、あれから八カ月近くたっている。
「どうした?」
 今度も、近臣を遠ざけてあった。
「唐の使者が大宰府まで参りました」
「どんな奴だ?」
「それが、軍船《いくさぶね》三隻に乗り組んだ兵《つわもの》どもで、大将は郭《かく》|務※[#「りっしんべん+宗」、unicode60b0]《むそう》と申す将軍でございます」
「なんじゃと、兵はどれくらいだ?」
「少なく見積っても千五百はおりましょう」
 鵜足の言葉に、中大兄は蒼白となった。
 いよいよ唐が攻めて来たのか。
(しかし、それにしては兵千五百は少な過ぎる)
 中大兄は気を取り直して、
「使者の口上は何だ」
「それがはっきり致しませぬ」
 鵜足は首を傾《かし》げて、
「とにかく入京を許せ、都にのぼって帝に会いたい、と申すのみにて」
「入れてはならぬ」
 中大兄は大声で叫んだ。
 鵜足は驚いて、まじまじと中大兄を見た。
「いや、入れてはならぬ」
 中大兄は声の調子を落とした。
 鵜足はほっとしたように、
「では、何と申して追い返しましょうか。御下知を賜りたく存じます」
「手荒な真似もならぬ」
 中大兄はあわてて言った。
 唐兵を挑発するような行為は、是非ともつつしまねばならなかった。
「とにかく口上だけは聞いておけ。その上で、都では帝が病いに臥せておられるゆえ接見はあいならぬと言うのだ」
「かしこまりました」
「それから、この際だ。唐がどういうつもりなのか、唐の軍船とはどのようなものか、つぶさに見ておけ。よいか、いずれ戦うかもしれぬのだからな」
「ははっ」
 鵜足は頭を下げた。
「すぐに行け。返事が遅れれば、唐の者はしびれを切らすかもしれぬ」
「それでは参ります」
 鵜足は、本当は休みたかった。
 大宰府からここまで、苦しい思いをして駆けて来たのである。すぐに戻らねばならぬことを頭で理解しても、身体《からだ》の方が嫌がっていた。
 せめて労をねぎらう言葉をかけてくれぬものか、鵜足はそう思った。
「どうした、早く行かぬか」
 中大兄はいらいらしたように言った。
「——はっ、ただちに」
 鵜足は割り切れぬ思いで外へ出た。
 中大兄は急いで奥に入った。
(城を、もっと造らねばならぬ)
 目が血走っていた。
 既に壱岐、対馬には巨大な朝鮮式山城を築き始めている。
 その地を守る防人《さきもり》の数も大幅に増やしている。主に精強な関東の兵を回す態勢ができている。
(大宰府にも城を造らねば——)
 それについては、百済亡国にあたって日本に帰化してきた鬼室《きしつ》一族の提案があった。
 鬼室氏は、福信《ふくしん》は殺されたが、他にも優秀な軍人がたくさんいる。
 その鬼室一族は既に壱岐、対馬で城を築いていたが、大宰府防衛についても綿密な計画を立ててきた。
 それは今の大宰府を海沿いから内陸に移して、その前方、つまり大陸寄りのところに防衛線を築こう、というものだった。
「いわば水城《みずき》というものでございます」
 提案者は言った。
「水城?」
「はい、このように——」
 と、提案者は絵図を広げた。
 中大兄がのぞき込むと、それはむしろ堤防のように見えた。
「これは堤《つつみ》ではないのか」
「はい、こちら側に水を貯めます」
「水を貯めてどうする?」
「堀となすのでございます」
「なるほど、それで防ぐのか、——だが、これだけの土を盛り上げるのは大変ではないか」
 その「水城」は、現在の大宰府がある那大津《なのおおつ》と、内陸へ移った新大宰府の二点を結んだ直線上を横切る形の長大なものなのである。
「土は掻《か》き揚《あ》げと致します」
「掻き揚げ?」
 中大兄は、その聞き慣れぬ工法に首を傾げた。
「はい、堀のために掘った土を、そのまま土塁用に積み上げるのでございます。さすれば、堀を深く掘れば掘るほど、堤も高くなるというわけで——」
「なるほど、道理じゃの」
「もしも、敵軍が筑紫に上陸してきた時は、まず、この水城で防ぎます。これを突破されては——」
「突破とは、どういう意味だ」
 中大兄は口を挟んだ。
「これは申しわけございませぬ」
 提案者の百済人は頭を下げた。
「突破とは、突き破ることでございます」
 中大兄はうなずいた。
 帰化人は、唐の言葉にも巧みな者が多いので、ときどき言葉の中に漢語が混じるのである。
「なるほど、では、その『突破』の時はどうする」
「はい、そのおりは大宰府を捨てて山城に籠ります。その位置はこことここにございます」
 と、百済人は絵図上の二点を指さした。
 この戦法については、中大兄も知識があった。
 都市の全面を城壁で囲い、いざという時は都市がそのまま城塞と化すのが、中国式である。
 これに対して、戦時には都市を放棄し、非常用に築かれている山城に住民と共に逃げ込む、というのが朝鮮方式である。
 それぐらいの知識は、中大兄にもあった。
「よし、急いでこの通りに造るがよい」
「かしこまりました」
 百済人は頭を下げ、遠慮がちに言った。
「人も金も、これまでよりも多くかかりますが——」
「かまわぬ。そのことは案じるな」
 中大兄は事も無げに言った。
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