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日本史の叛逆者118

时间: 2019-05-24    进入日语论坛
核心提示: 間人太后《はしひとたいこう》が突然この世を去ったのは、年が明けて春のことだった。 呆気《あつけ》ない死だ。「死んだのか
(单词翻译:双击或拖选)
 間人太后《はしひとたいこう》が突然この世を去ったのは、年が明けて春のことだった。
 呆気《あつけ》ない死だ。
「死んだのか——」
 中大兄は実のところ、彼女の存在を忘れていた。
「はい、朝おめざめの後、胸が苦しいと仰せられ、水をお取り寄せになったのですが、そのまま呆気なく」
 女官の樟葉《くずは》は涙ながらに言上した。
「そうか」
 中大兄は別に涙が出て来なかった。
 樟葉は、中大兄がそれ以上何も言わないので、不審な顔をした。
「——あの」
「何だ。もう帰ってよいぞ」
「——皇太子様は、お出ましにならないのでございますか」
「多忙なのだ」
 中大兄は言った。
 実際そうであった。
 唐との戦《いくさ》に備えて、やることは山積していた。
 内政の充実、軍備の拡張、唐との折衝——私事に時間を割いている暇はない。
 樟葉は怒りの色を浮かべた。
「皇太子様、太后《おおきさき》様がお隠れになったのでございますよ」
 それがどうした、という眼で中大兄は樟葉を見た。
「お別れなさるのが作法ではございませぬか」
「葬《とむら》いはする。立派な陵《みささぎ》も造ってやる」
 中大兄は面倒臭そうに言った。
 そんなことではございません。喉元まで出かかった言葉を、樟葉はかろうじて呑みこんだ。
(なんと情の無い御方であろう)
 中大兄はそのまま席を立ち、奥に入った。
(おかわいそうな、太后様)
 樟葉は流れる涙をぬぐおうともせず、その場を去った。
 戻ってみると、大海人が館にいた。
「まあ、あなた様は」
 樟葉は目をみはった。
「このたびは突然のことで、お悔み申し上げる」
 大海人は頭を下げた。
「いつ、筑紫《つくし》からお戻りに」
「つい、先程な。館に帰ってすぐに、知らせを聞いた」
 樟葉は、大海人の姿が旅塵にまみれているのに、気が付いた。
 旅装も解かずにここへ来てくれたのだ——樟葉は、中大兄のところでとは違う涙を流した。
「では、これで失礼する」
 大海人は言った。
 死者と対面するのは近親者に限られる。
 大海人も異腹の兄だから、会う資格があるが、相手が皇后の位に昇った女性でもあり、遠慮したのである。
 樟葉も強いて対面を勧めなかった。
 大海人は辞去した。
 樟葉は死者の永眠する部屋に戻った。
 太后は、なにかほっとしたような表情をしていた。
 それを見て樟葉は、また涙がこぼれてならなかった。
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