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日本史の叛逆者122

时间: 2019-05-24    进入日语论坛
核心提示: 中大兄皇子の言葉を聞いて、大海人皇子は苦い顔をした。 大海人と朱堅が試合をするとなれば、座興では済まなくなる。 劉は一
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 中大兄皇子の言葉を聞いて、大海人皇子は苦い顔をした。
 大海人と朱堅が試合をするとなれば、座興では済まなくなる。
 劉は一瞬、とまどいの色を見せた。
「気がすすまぬのか」
 中大兄は軽く挑発するように言った。
 劉は朱の方を見た。
 朱は無表情でうなずいた。
「お受け致しましょう」
 劉は言った。
「そうか、受けられるか。さすが大国の使者じゃのう」
 中大兄は笑みを浮かべて、大海人を見た。
「では、一手教えてもらえ」
 そう言った目は、まったく笑っていなかった。
(——勝手なお人だ)
 大海人は文句を言いたかった。
 この試合、勝っても負けても、具合が悪い。
 勝てば唐使の一行は機嫌を悪くするだろうし、負ければ日本の恥だ。どちらに転んでも、いいことはない。それなのに、中大兄はやれという。
 勝つことを望んでいるのだろう。
 しかし、勝てばいいというものではないし、第一、勝てると決まったものでもない。
 朱堅という男はかなりの使い手である。
 一般に剣と槍では、槍の方が有利とされているが、その利を生かせるものかどうか、大海人は自信がなかった。
 が、やらねばならない。
 大海人は広場に進み出た。
 朱も進み出た。
 両者はまず上座に一礼すると、今度は面と向かって一礼した。
 その時、大海人は初めて朱の眼光を見た。
 深い海の底を見たように思った。
 ぎらぎらするものはない。だが、それだけに得体の知れぬ不気味さがある。
「いざ」
 大海人は声をかけた。
「応《おう》」
 朱は短く言った。
 そのまま動かない。
 大海人が仕掛けるのを待っているのだ。槍を相手にする場合、これは決してまずいやり方ではない。
(ではお手並み拝見といくか)
 大海人はわざと大声を張り上げ、槍を少し加減して突き込んだ。
 朱が、にやりと笑ったように見えた。
(——!)
 気が付くと、朱はそこにはいなかった。
 大海人はあわてて、槍をはらうようにし、左に飛んだ朱の足を狙った。
 穂先を使えば、相手に怪我を負わせてしまう。血を流さずに勝つには、この手しかない。
 だが、朱はそれを予期していたのか、今度は飛び上がった。
(おのれ)
 大海人は手加減する必要がないのを知った。
 それどころか、このままではとても勝つことなど覚束ない。
(よし)
 大海人は思い切って本気で突いてみた。
 もちろん、急所ははずした。
 がつん、と初めて手応えがあった。
 朱が剣で受けたのである。
 受けた時、目と目があった。
 朱が何か言ったように、大海人は感じた。
「それではこちらからも参りますぞ」とでも言ったのか。
 朱の鋭い一撃が来た。
 大海人は槍の柄でこれを受けた。
 受けると同時に肝が冷えた。
 大海人は、槍の柄には丈夫な樫を使い、鉄の鎖を巻いている。
 それがなければ、朱の一閃に柄は両断され、大海人は脳天を斬り割られていただろう。
 朱はつづいて、左と右から二回攻めて来た。
 大海人は、なんとかこれをかわした。
 そこで斬撃が止まった。
(そうか)
 大海人は、その理由《わけ》を悟った。
 こちらの攻撃回数に合わせて、向うも攻撃をしてくるのだ。
(それならば——)
 大海人は一度撃ち込み、相手の攻撃を待った。
 朱も大海人の考えを理解した。
 わざと声を出して、朱は一回だけ撃ち込んできた。
 こうなれば、話は決まった。
 大海人と朱は交互に撃ち合いを始めた。
 傍目には、両方が真剣に戦っているように見えただろうが、実は二人は演武を見せていたのだ。
 打ち合わせなしの演武であった。
 十合以上撃ち合うと、さすがに両者とも息が切れてきた。そして、どちらからともなく離れて見合った。
 機をうかがっていた劉が立ち上がった。
「これまでと致しませぬか」
 その言葉は、通辞から中大兄に伝えられた。
「よかろう」
 中大兄はうなずいた。
 勝負は引き分けとなった。
(よかった)
 大海人はようやく肩の力を抜いた。
 朱も初めて笑みを浮かべた。
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