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日本史の叛逆者130

时间: 2019-05-24    进入日语论坛
核心提示: 邸での歓迎宴は、東厳一人をもてなす簡素なものだった。もちろん東厳にも従者はいるが、それは別室でもてなし、東厳だけを奥に
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 邸での歓迎宴は、東厳一人をもてなす簡素なものだった。もちろん東厳にも従者はいるが、それは別室でもてなし、東厳だけを奥に招いたのである。
 東厳は使者に選ばれるだけあって、日本語を巧みに話し、会話には不自由はなかった。
 大海人は、唐からの使者の贈物である葡萄《ぶどう》の酒を、白瑠璃の盃に注いで、東厳に与えた。
「これは珍なる酒ですな」
 東厳はうれしそうに盃を見、ゆっくりと味わうように酒を飲んだ。
「お国では珍しくもあるまい」
「いえいえ、このような酒、われらの口に入るものではございませぬ」
「そうかな」
 大海人は、盃にさらに酒を注いでやり、
「貴国は唐の方々と随分と仲良うされておる。かの国の友人も沢山おられよう。こんな酒など、いつでも手に入るのではないかな」
「なかなか」
 と、東厳は首を振り、
「近頃はいろいろときしみもございましてな」
「ほほう、きしみとは」
 大海人は東厳の目を見た。
 東厳も上目使いで見返した。
 両者の視線がぴたりと一致した。
「——それはおわかりでしょう」
「いや、わからぬ」
 と、大海人は盃を干して、少し間を置くと、
「酒の飲み過ぎか、最近とんと勘がにぶくなってな」
「それは御謙遜でございましょう」
「いやいや」
「皇太弟様は、唐という国のことをどのようにお考えになっています?」
「——」
「さしつかえなくば、忌憚のないところをお伺いしたいものですな」
「使者殿、それは貴国と同じだ」
 大海人は微笑をふくんで言った。
「同じ?」
 東厳は、けげんな顔をした。
「隣家が自家より大きく乱暴ならば、誰もが迷惑するであろう」
「迷惑ですか、なるほど」
「使者殿も、万一のことあらば、この国へ逃げて来られよ。よき官に推挙致す」
「これはこれは、かたじけない」
 東厳も笑った。
「ただ、そのようなことが無いように祈っている」
「そういえば、この国では百済人《くだらびと》の官が多くなりましたそうな」
「その通りだ。百済人にはなかなか優れた者が多い」
「それはよろしゅうございました」
「貴国のおかげだな」
 大海人は言った。
「はて?」
 東厳は首を傾げた。
「貴国が百済を滅ぼしてくれなければ、これほど優れた者たちを受け入れることはできなかったろう」
「これは、おたわむれを」
 東厳は苦笑した。
「もっとも、よきことばかりではない。多くの百済人は、いまだに不倶戴天の敵として貴国を見ておる」
「——」
「やむを得ぬことだがな。——ここだけの話だが、わしは百済人どもが早くこの国に落ち着き、故国のことを忘れてくれぬかと思っている」
「その方が、この国のためだと?」
「まさにな」
 大海人はうなずいて、
「憎しみは人の心を狂わせる。どうしても、偏りのない目で物を見ることはできなくなる」
「帝はいかがです」
「——」
「帝は、百済人に格別の思《おぼ》し召しがあるやにうかがっておりますが」
「それを探りにこの国に参られたか」
「これはこれは——」
 東厳は再び苦笑して、
「賢者の前では隠し事はできませぬな」
「使者殿、わたしの存念を言おう」
 大海人は意を決して切り出した。
「これはあくまでわたし一人の考えだ。よいな」
「ははっ、謹聴致しまする」
 東厳は頭を下げた。
「貴国とわが国は確かに戦った。敵同士であった。しかし、貴国が唐と手を結んだのは止むに止まれぬことと、わたしは思っている。唐という化物のような国がこの世に生まれ出たのがすべて悪いのだ」
「恐れ入りまする」
「だから、単に新羅憎しだけで、世の中を考えてはいけない。わたしは、この先も、唐の出方を物事の真ん中に据えて考えていきたいと思っている」
「なるほど」
「そこで、使者殿。今度はわたしから聞きたい。そもそも新羅は今後は、唐とどのように付き合うていこうとお考えなのかな。——先程は言葉を濁されたようだが、本音を聞きたいものだ」
「あははは、これは手厳しい」
 東厳の目は笑っていなかった。
 すぐに真顔に戻ると、東厳は、
「では、申し上げまする。一言で申さば、和戦両様ということでございましょうな」
「和戦とは、戦もするのか」
「はい、和議だけで済めばこれほど目出たいことはござりませぬが、唐という国はそんな甘いところではございませぬ」
 東厳の言葉に大海人はうなずいた。
 下手《したて》に出て、頭を下げれば許してくれるというものではない。唐は朝鮮半島すべてを己れの物にしたいという欲望がある。
 その欲望がある限り、単なる恭順ではまずい。
 しかし、あの超大国である唐と戦って勝つことも困難だ。局地戦では何とか勝利を収めることができたとしても、そもそも国土も人口も国力も違い過ぎる。最終的に勝つなど不可能だ。
 東厳もその点は充分にわかっている。
「まず戦って、いざとなれば人種《ひとだね》が尽きるまで戦うという気概を見せまする」
「そのうえで、有利な条件で和を結ぼうというのだな」
「仰せの通りにございます」
「綱渡りだな」
 大海人は溜息をもらした。
「まさしく」
 東厳はうなずいて、
「それにしても皇太弟様、わたくしは貴国がうらやましい」
「ほう、どこがだ」
「あの唐と、陸続きでないということでございます」
「なるほどな。陸続きであるがゆえの苦労か」
「はい。御先代も、それで御寿命を縮められました」
 東厳が言ったのは、来日したこともある金春秋武烈王のことだ。武烈王は、つい先年、まだ壮年なのに亡くなっていた。後を継いだ金法敏は即位したばかりである。
 今回の使者は、その代替りの挨拶ということも含まれていた。
「先代には、わたしもお会いしたことがある。立派な御方だった」
「左様でございましたか」
 東厳は、この皇太弟である大海人に好意を持っていた。
 あの尊大な帝とは比べものにならない。しかも、東厳は大海人の出生の秘密も知っていた。
「それにしても、もし貴国が唐と事を構える時、われらの軍船が攻め入ったら厄介なことになるな」
「厄介どころではございません」
 東厳は真面目な顔で首を振り、
「さような事態になれば、わが国は滅亡の淵に立たされることになります」
「北から唐の大軍、南からわれらの水軍——なるほど挟み撃ちということになる」
 大海人は大きくうなずいて、
「それだけは避けねばならぬな、使者殿」
「まことに」
「使者殿は、わが国がそうする気があるか無いか、いや、その前に少しでも貴国に対する憎しみの心を和らげようと参られた、そうだな?」
「皇太弟様には、かないませぬな。何もかも御眼力で見通される」
「世辞はよい、使者殿、そこで貴殿はどう見られた。わが国は唐と結ぶ気があるのかどうか」
「——さて」
 と、東厳は慎重に言葉を選んで、
「帝は、わが国も憎いが、唐も憎い。そのように見えました。すると、その憎い唐と手を結ぶことは、まず有り得ない——」
「ははは、使者殿、心にも無いことを言うでない」
「——」
「残念だが、わが帝は、そもそも唐と貴国が仲違いをすることすら、あまり考えてはおられぬ。したがって、唐と結ぶか結ばぬかは、まだ考えておられぬと見るべきであろう」
「——」
「それゆえ、危ない」
「どうされます?」
「わたしのことか、それともこの国のことか?」
 大海人は反問した。
「両方でございます」
「ならば決まっておる。わたしは貴国と手を結んで、唐に抵抗するしかないと考えている」
「ありがたきお言葉でございますが、もし帝が許さぬと仰せられたら、いかがなさいます」
「——」
 大海人は声を潜《ひそ》めて答えた。
「使者殿、世の中にはどう答えていいものか、わからないこともあるぞ」
 そう言う大海人の顔には苦渋の表情が浮かんでいた。
 
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