李宗(りそう)が楚州の長官だったときのことである。
一人の若い尼僧が町を歩いていたが、急に地面にぺったりと坐り込んだまま、動かなくなってしまった。尼僧はそのまま、幾日も茫然と坐りつづけていて、食べ物や飲み物を与えようとする者がいても見向きもしなかった。
李宗はそのことを聞くと、部下の者をやって無理やりに尼僧の躰(からだ)を地面から引きはがさせた。尼僧の坐っていた下は、べっとりと濡れていた。試みにその下を掘って見ると、大きな亀があらわれた。
李宗はその亀を川へ放してやった。尼僧はその後、何のかわったところもなかった。ただ、地面に坐り込んでいた数日間のことは、何もおぼえていなかった。
宋『稽神録』