晋のとき、呉(ご)郡に王という士人がいた。
船で呉郡へ帰る途中、曲阿県まで行くと日が暮れてしまったので、大きな堤防の下に船を着けて夜泊(よどま)りすることにした。そのとき王は、堤防の上に十七、八の娘がいるのを見かけたので、声をかけ、船の中に呼び入れて一夜をともにした。
夜が明けてから王は、自分の腕から金の鈴をはずして、傍に寝ている娘の腕につけてやった。そして供の者に、娘を家まで送りとどけるようにいいつけた。
供の者は娘についてその家まで行った。娘はある農家の前まで行くと、
「ここです。どうもありがとうございました」
といって駆け込んで行った。供の者がそのあとからはいって行って、昨夜、娘を船に泊めたわけをその家の主人に話すと、主人は怪訝(けげん)な顔をして、
「家をおまちがえになったのじゃありませんか。うちには娘はおりませんけど……」
といった。供の者が、
「いえ、確かにたったいまこの家へ……」
といいながら、何気(なにげ)なく表の豚の檻(おり)の方へ眼を向けると、そこに、前脚に金の鈴をつけた雌の豚がいた。
六朝『捜神記』