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中国怪奇物語058

时间: 2019-05-28    进入日语论坛
核心提示:  和尚と将軍 唐の長慶年間、馬拯(ばじよう)という無官の士がいた。淡白な、物静かな性格の人で、山水をめぐり歩くことを好
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   和尚と将軍
 
 
 
 
 唐の長慶年間、馬拯(ばじよう)という無官の士がいた。淡白な、物静かな性格の人で、山水をめぐり歩くことを好み、どんな谷にでも分け入り、どんな山にでもよじ登っていった。
 湘中(しようちゆう)に滞在していたときのことである。ある日、衡山(こうざん)の祝融峰(しゆくゆうほう)へ登って伏虎(ふくこ)和尚の禅寺(ぜんじ)に参詣した。道場はおごそかに清められていて、仏前にはよい香りの果物などが幾つもの銀の皿に盛ってあった。そこに一人の老僧がいた。眉毛が雪のように白く、朴訥(ぼくとつ)そうな、がっしりした体格の人であった。その老僧は馬拯が参詣したことを大変よろこんだ。いやよろこんだのは、馬拯が参詣したからではなく、参詣した馬拯が下男をつれていたからであった。
「下男のかたを、ちょっとお貸しくださいませんでしょうか」
 と老僧は馬拯にいった、
「この下の町の市場へ、塩と牛酪(ぎゆうらく)を少々買いに行ってもらいたいのですけど」
 馬拯は承知した。下男が渡された金を持って出て行くと、しばらくして老僧もどこかへ行ってしまった。
 それから間もなく、一人の男が山を登ってきた。何かにおびえているような様子だった。男は道場に馬拯がいるのを見ると、走り寄って来て、
「いま、ここへ来る途中、虎が人間を食っているのを見ました。どこの誰か知らないが、可哀そうに」
 といった。馬拯が真偽を疑っていると、男は、自分は馬沼(ばしよう)山人といって、あやしい者ではないといった。
「あなたを疑っているわけではないのです。ただ、突然お話をきいたものですから」
 馬拯がそういって、虎に食われた人の身なりや年恰好(としかつこう)などをきいてみると、どうやら自分の下男らしいのである。いよいよおどろいて、身の置きどころもない思いでただうろたえていると、馬沼山人はさらに、
「遠くから見ていたのですが、虎はその人を食ってしまうと、毛皮をぬいで袈裟(けさ)に着がえ、老僧の姿になってしまったんです」
 といった。ちょうどそのとき、山を登って来る老僧の姿が見えた。すると馬沼山人は、
「あれです。あれがさっきの虎にちがいありません」
 といった。
「いや、あの老僧は……」
 と馬拯がいったとき、老僧は道場にあがってきて、
「このおかたは?」
 と馬沼山人をちらりと見ていった。
「このかたがここへ見えて……」
 と馬拯は思い切っていった、
「山の中腹で、わたしの下男が虎に食われているところを見たとおっしゃるのですが、どうしたらよいでしょう」
 すると老僧はむっとした様子で、
「愚僧の住むこの霊域には、山には虎も狼もおらず、草むらには毒虫もおらず、路には蛇もおらず、林には梟(ふくろう)もおりません。その人はでたらめをいってあなたをおどしているのです。信用してはなりません」
 といったが、そういう老僧の口もとを見ると、まだなまなましい血がついているのだった。
 間もなく日が暮れてきて、馬拯と馬沼山人は寺の食堂(じきどう)に泊ったが、おそろしくてならず、入口の戸をかたく締め、あかあかと燈火をつけて、寝ずに外の気配をうかがっていた。すると夜がふけわたったころ、激しく戸に体当りをする音がした。音は三度、四度とつづいたが、厚くて岩乗(がんじよう)だったためこわされずにすんだ。二人が食堂に祭られている賓頭盧(びんずる)尊者の土像の前で、香を焚(た)いて無事を祈願しながらうちふるえていると、やがて土像が詩を口ずさんだ。
 
寅人(いんじん)は溺れん欄中(らんちゆう)の水に
午子(ごし)は艮畔(こんはん)の金(きん)を分けよ
特進(とくしん)に重弩(ちようど)を張らせなば
必ず将軍の心(しん)を破るべし
 
 二人はその詩をおぼえ込んで、謎解きをした。
「寅(いん)とは虎のことだ。寅人というのはあの老僧のことにちがいない。欄(らん)はてすり。欄中の水というと、井戸のことだろう。午子は吾子(ごし)で、賓頭盧さまが二人のことをそうお呼びかけになったのだ。艮畔の金というのは、艮のそばの金。つまり銀だ。銀というのは、おそらく道場の仏前のあの銀の皿のことだろう」
 そこまでは解けたが、あとの二句はどうしても解けなかった。
 やがて夜があけると、戸をたたく音がして、
「起きて来て、粥(かゆ)を食べなされ」
 という声がきこえてきた。あの老僧の声だった。二人は思い切って戸をあけた。老僧は笑って、
「よく眠れましたかな」
 といった。二人は粥を食べたが、何ごともおこらなかった。そのあとで二人は相談した。
「あの老僧がいる限り、山を下りることはできないだろう。下りれば山路で襲われて、食われてしまうにちがいない。賓頭盧さまは、虎は井戸の中で溺れるとお告げになった。それを信じよう」
 道場の傍に井戸があった。二人はそこへ行って中をのぞいた。山の上だから深い井戸である。たとえ神通力を持っている者でも、落ちたら這いあがることはできないであろう。馬拯はその井戸の傍で大声で喚いた。
「井戸の中に人がいる。わたしの下男らしい」
 すると老僧がやって来て、
「なに、なに」
 といいながら、枠(わく)に手をかけて中をのぞいた。そのとき二人は左右から老僧の足をすくい上げて、井戸の中へ突き落した。老僧は虎に姿を変え、まっさかさまに井戸の底へ落ちて行った。
二人は虎が底へ落ちたのを見とどけると、大きな石を投げ込んで重(おも)しにした。そのあと、二人はほっとして顔を見合わせ、
「銀の皿を分けよというお告げだったな」
 といって道場へ行き、供え物の盛ってある銀の皿を取って同じ数に分けた。そして食堂へ行って賓頭盧尊者の土像を拝んでから、山をくだった。
 夕暮れ近くなったとき、二人は猟師に呼びとめられた。猟師は路ばたに弩(いしゆみ)のわなを仕掛け、木の上に棚を作ってそこで見張っていたのだったが、二人に、
「そこのわなに、さわらんようにしなされよ」
 といった。そして、
「ここから麓までは、まだだいぶんありますぜ。それに虎どもがあばれまわっている最中だから、この棚へのぼっておいでなされ」
 というのだった。二人は虎があばれまわっていると聞いておどろき、急いで木をよじのぼって棚にあがった。
 しばらくすると、四、五十人もの群れが近づいて来た。僧侶もおれば道士もおり、男もおれば女もいた。何やら歌をうたっている者もおれば、踊っている者もいた。一同はわなのところまで来ると、ぴたりととまった。その中の一人がいった。
「今朝、わしらの和尚さんが二人の悪党に殺されなさったばかりだというのに、こんどはまた、わしらの将軍さまを殺そうというやつがあらわれて、ここへわなを仕掛けやがったぞ」
 そしてみんなで仕掛けをはずし、また歌ったり踊ったりしながら行ってしまった。
「あの連中は何なのです」
 と二人がきくと、猟師は、
「ちくしょう、仕掛けをはずして行きやがった。あれは〓鬼(ちようき)といって、虎に食われた人間の亡霊なんですよ。虎に食われたくせに、虎のために露払いの役をつとめているやつらなんです」
 といった。
「あんた、お名前は?」
 と馬拯がきくと、猟師は、
「名前をいうほどの者じゃないが、苗字は牛(ぎゆう)、名は進(しん)といいます」
 といった。二人は同時に、
「ありがとう。それでわかった」
 と大声をあげた。
「それで解けた。賓頭盧さまのお告げの特進(とくしん)というのは、特は牡牛(おうし)で、この牛進さんのことだったのだ。重弩(ちようど)は牛進さんの仕掛けの強い弩(いしゆみ)のことだし、将軍というのは、さっき〓鬼たちがいっていた虎のことなんだ。心(しん)を破るというのは、弩の矢が虎の心臓に突き刺さるということだろう」
 そこで二人は牛進に、もういちど弩に矢を仕掛けなおすようにすすめた。牛進が仕掛けなおして棚にもどって来ると間もなく、一頭の大きな虎が飛び出して来て吼(ほ)えたが、その前足がわなに触れたとたん、弩の矢が心臓に命中して、虎はどたりと倒れた。
 すると間もなく〓鬼たちがあわてて駆けもどって来て、みんなで死んだ虎をとりかこみ、口ぐちに、
「いったい、どこのどいつがわしたちの将軍さまを殺したんだ」
 といい、何人かは死体の上に身を伏せて号哭(ごうこく)しだした。
 馬拯と馬沼山人はそれを見て、大声で〓鬼たちにいった。
「ばかな亡霊どもだ。おまえたちは虎に食い殺されたんだぞ。虎はおまえたちの仇じゃないか。おれたちは、仇を討ってやったんだぞ。それなのにおまえたちはありがたいとも思わず、悲しんで泣いているとは何ということだ。亡霊でありながら、そんなにものわかりがわるいとは、あきれたやつらだ」
 すると〓鬼たちは泣くのをやめて、ひっそりと静まってしまった。しばらくすると〓鬼の中の一人がいった。
「わしたちの和尚さまや、わしたちの将軍さまが、虎だったとは知りませんでした。あなたがたのおっしゃることをきいて、はじめて眼がさめました。よく見れば、ここに殺されているのは確かに虎です」
 そしてこんどはみんなで虎の死体を蹴りつけ、木の上の三人に礼をいって立ち去って行った。
 夜があけてから、二人は銀の皿を牛進に分け与えて山を下りた。
唐『伝奇』 
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