銭(せん)塘(とう)に杜(と)子(し)恭(きよう)という人がいた。
隣家の某が商用で旅に出ることになり、杜子恭に瓜(うり)を割(さ)く刀を貸していたことを思いだして返してもらいにいくと、杜子恭はすっかり恐縮して、
「うっかりしていて失礼しました。すぐお返しします」
といったが、そういうだけで、いっこうに返そうとはしない。これから旅に出るのだからと隣人が催促しても、
「すぐお返しします」
とくりかえすだけである。あるいは、なくしてしまったのかもしれぬ、と隣人は思い、あきらめて旅に出た。
やがてその人の船が嘉(か)興(こう)までいくと、一匹の大きな魚が船の中へ飛びこんできた。不思議に思ってその腹を割いてみると、杜子恭に貸してあった刀が出てきた。
六朝『捜神後記』