むかし、ある人が馬に乗って山道を行くと、はるか向うの洞窟の前に人のいるのが見えた。そこで、近くまで行って馬を下り、道のないところを踏み分けて洞窟にたどりついてみると、二人の老人が双(すご)六(ろく)をして遊んでいた。声をかけたが、老人たちは返事もしない。人がきたことなど、まるで気にもかけていない様子だった。
そこで、鞭(むち)を杖(つえ)にして見ていたが、双六の勝負はなかなかつかない。
ふと気がついてみると、いつのまにか鞭が腐ってばらばらになっているのだった。老人たちは相変らず双六をやっている。引き返してみると、木につないでおいた馬は骸(がい)骨(こつ)になっていて、鞍(くら)も朽ちはててしまっている。
夢でも見ているのではないかと思いながら、山道を歩いて家に帰ってみると、自分の家なのに知っている者は一人もいない。その人はひとしきり慟(どう)哭(こく)し、そして息が絶えてしまったという。
六朝『異苑』