豫(よ)章(しよう)の盧(ろ)松(しよう)村に、羅(ら)根(こん)生(せい)という百姓がいた。
村はずれの荒地を開墾して畑を作り、瓜(うり)を植えた。開墾してはじめてわかったのだが、荒地の隅に小さな祠があった。
瓜が蔓(つる)をのばしはじめたころ、根生が畑へいって見ると、祠の横に真新しい木の板が立ててあって、墨でこう書いてあった。
「ここは神の遊ぶところである。人間の立ち入るべき地ではない。瓜畑を速かに撤去せよ」
根生はそれを見ると、祠の前にぬかずいて祈った。
「無札な疑いではございましょうが、あるいは村の誰かが、この開墾した土地に目をつけ、神託にかこつけてわたしからこの土地を奪おうとしているのではないかとも思われます。そうではなくて、まことに神さまの思(おぼ)し召しでございますならば、あらためて朱(しゆ)でお書きなおしになって、お示しくださいますように」
翌朝、根生が畑へいって見ると、祠の横の木の板は昨日のままだったが、文字だけは全部朱色にかわっていた。
根生は祠の前にぬかずき、無礼をわびて立ち去った。
六朝『述異記』