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中国怪奇物語083

时间: 2019-05-28    进入日语论坛
核心提示:  瓶の中 揚州の町かどに、ある日、一人の乞食風(ふう)体(てい)の男があらわれた。名を胡(こ)媚(び)児(じ)というだ
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   瓶の中
 
 
 
 
 揚州の町かどに、ある日、一人の乞食風(ふう)体(てい)の男があらわれた。名を胡(こ)媚(び)児(じ)というだけで、どこからきた者ともわからなかったが、不思議な術で人々を驚歎させていた。
 彼は透きとおった玻(は)璃(り)の瓶(びん)を持っていた。瓶の口は葦(あし)の管(くだ)ほどの太さだったが、彼は、
「この口は細いが、なんでもはいる」
 といった。見物人の一人が一枚の銭をとりだして、
「この銭がはいるかね」
 というと、彼はうなずいて、
「はいる」
 と答えた。男が銭を瓶の口に近づけると、銭はすいこまれるように男の手をはなれて、瓶の底にかすかに澄んだ音が鳴った。人々が顔を寄せて見ると、銭は瓶の底に豆粒くらいの大きさで光っていたが、次第に小さくなってやがて芥(け)子(し)粒ほどになり、そして消えていった。
 こんどは別な男が、一度に数枚の銭を瓶の口に近づけた。かすかな音が鳴り、人々が顔を寄せて見ると、銭は瓶の底に幾粒かの小さな点になって光っていたが、やがてみな消えていった。十枚入れても、二十枚いれても、すべて同じだった。
 こうして胡媚児は一日に数百の銭をもうけ、不思議な瓶の噂はたちまち揚州の町じゅうにひろがった。
 その日も人々は、胡媚児のまわりに集って瓶の不思議を見ていた。と、そこへ、数十輛の馬車を宰領した役人がやってきた。馬車には役人が租税として徴集してきた穀(こく)物(もつ)が満載されていた。役人は馬車をとめてしばらく胡媚児の術を眺めていたが、やがて人垣をかきわけて進み出て声をかけた。
「おい、その瓶には銭しかはいらんのか」
「いや、なんでもはいります」
「なんでもはいる? 確かになんでもはいるか」
「はい、なんでもはいります」
「よし、それでは、おれが宰領してきたあの馬車もはいるというのだな」
「はい、はいります」
「よし、いれてみろ」
 人々が固(かた)唾(ず)をのんで見まもるなかで、胡媚児は馬車にむかって瓶の口をかたむけた。と、数十輛の車輛は、馭者もろともつぎつぎに瓶のなかへすいこまれてゆき、胡媚児が瓶をおこしたときには、馬車は一列になって瓶の底をぐるぐるとまわっていた。馬の蹄(ひづめ)の音、車のきしむ音が、まるで天上の楽(がく)の音(ね)のような妙(たえ)なる旋律をかなでて人々を恍惚たらしめた。
 馬車の行列は円をえがきながら瓶の底をまわっていたが、やがて渦を巻くように、次第にその先頭から消えていった。すっかり消えてしまったとき、人々はほっと溜(ため)息(いき)をついて感歎の声をあげた。役人もようやく我にかえっていった。
「見事だ。すばらしい術だ。つい、道草をくってしまったが、あまりおそくなると上役にとがめられる。では車を返してもらおうか」
「返りません」
 と胡媚児は冷やかにいった。
「冗談をいわずに、さあ、返してくれ。急ぐのだ」
 役人がいくらいっても、胡媚児は、
「返りません」
 とくりかえすだけである。
 役人はようやく事の重大さに気づき、顔色をかえて、勢いするどく胡媚児に迫って叫んだ。
「えい、返せといったら返さんか。急ぐのだ。ぐずぐずしていると斬るぞ!」
 だが胡媚児は平然として、
「返りません」
 とくりかえすだけである。役人はかっとなって、剣を抜いた。白刃が胡媚児の頭上にきらめいたとき、すでに胡媚児はみずから瓶のなかへ飛びこんでいた。
 役人はあわててその瓶をつかみ、ふりあげざま地面にたたきつけた。瓶の割れる鋭い音がし、玻璃の破片があたりに飛び散ったが、馬車も胡媚児もどこへ消えてしまったのか、影も形もなかった。
唐『幻異志』 
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