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中国怪奇物語087

时间: 2019-05-28    进入日语论坛
核心提示:  鯉 蜀(しよく)州の青城県に、薛(せつ)偉(い)という主簿がいた。県(けん)丞(じよう)の鄒(すう)滂(ぼう)、県(
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   鯉
 
 
 
 
 蜀(しよく)州の青城県に、薛(せつ)偉(い)という主簿がいた。県(けん)丞(じよう)の鄒(すう)滂(ぼう)、県(けん)尉(い)の雷(らい)済(せい)・裴(はい)寮(りよう)といっしょに任命されたのであった。
 薛偉は主簿に任命された年の秋、病気になった。病気は重く、七日目には息もたえだえになって、死んでしまったように見えた。いくら呼んでも答えなかったが、胸のあたりにかすかにぬくもりが残っていたので、家族の者は棺へ納めるには忍びず、薛偉のまわりをとりかこんで容態を見まもっていた。
 十日すぎ、十五日すぎても、容態はかわらなかったが、二十日すぎたとき、薛偉は突然、長いうなり声をあげて起きあがった。そして家族の者に、
「わたしはいったい、何日間気を失っていたのだね」
 とたずねた。
「二十日間です」
 というと、薛偉は、
「ほかの役人たちの様子を見てきてくれ。いま、なますを食べているかどうか——。もしなますを食べていたら、こう言ってくれ。わしはもう生き返った、大変めずらしい話があるから、みんな箸(はし)を置いて聞きにきてくれとな」
 という。
 下男が走っていって役人たちの様子を見ると、はたしてなますを食べようとしているところであった。そこで主人の言葉を伝えると、みんなは食べるのをやめて下男についてきた。薛偉は一同を見て、
「みなさんは、戸籍係の小使の張(ちよう)弼(ひつ)にいいつけて魚を買いにいかせたでしょう」
 という。
「そのとおりだが、どうしてそれを……」
 と、一同がいぶかると、薛偉はまた下男に張弼を呼んでこさせて、張弼にいった。
「漁師の趙(ちよう)幹(かん)は大きい鯉をかくしておいて、小さいのをお前に売ろうとしたな。お前はそれに気づいて、趙幹が葦のあいだへかくしておいた鯉を見つけ出し、それを持って帰ったな。お前が役所へもどったとき、戸籍係の下役人と治安係の下役人が碁を打っていたな。奥へはいっていくと、鄒県丞と雷県尉が博奕(ばくち)をしていて、裴県尉は桃を食べていたな。趙幹が大きい鯉をかくしていたとお前が話すと、裴県尉は怒って趙幹を鞭で打てといいつけたな。お前が鯉を料理人の王士良にわたすと、やつはよろこんで鯉を殺したな。そうだろう」
 張弼はいちいちうなずいた。一同が、
「どうしてそれを知っているのか」
 とたずねると、
「さっき王士良が殺した鯉は、このわたしなのだ」
 といった。一同はびっくりして、口々に、
「いったいそれはどういうことなのだ。くわしく話してくれ」
 といった。薛偉は話しだした。
 
 病気になったとき、はじめは高い熱が出てどうにも我慢ができぬほど苦しかった。そのうちに、ふと気が遠くなったと思うと、病気のことは忘れてしまい、熱をさましに涼しいところへゆきたくなって、杖をついて出かけた。夢の中のことだということには全く気がつかなかった。町を出るととてもうれしくて、籠の中の鳥か檻(おり)の中のけものが逃げ出したときの気持も、この自分のうれしさには及ぶまいと思われるほどだった。
 それから山奥へはいっていったが、山道を登るにつれてだんだん暑くなってきたので、谷へ下りていって谷川のほとりをぶらぶらしていた。川を見ると、深く澄みきっていて、美しい秋の色をたたえ、さざ波ひとつ立たず、鏡のように大空とつながっている。見ているうちにふと泳ぎたくなって、着物を岸にぬぎすてて飛びこんだ。子供のときにはよく泳いだが、大人になってからは水遊びをしたことはない。いま存分に泳ぐことができて、日頃の願いのかなえられた思いで、うれしくてならなかった。そして、
「人間は魚のように早く泳ぐことはできない。魚の姿になってすいすいと泳げたらどんなによかろう」
 とつぶやいていると、一匹の魚が近寄ってきて、
「その気になれば、なれないことはありませんよ。ほんとうの魚になることだって、そうむずかしいことではありません。まして、魚の姿になりたいというくらいのことなら、わけなくかなえられますよ。わたしがとりはからってあげましょう」
 といった。そして、すいとどこかへいってしまった。
 しばらくすると、魚の頭をした、身のたけ数尺もある人が、鯨に乗って先頭に立ち、数十匹の魚をうしろに従えてあらわれた。その人はわたしにむかって、川の神の河(か)伯(はく)の詔書をおごそかに読みあげた。
「俗界に住むことと水中に遊ぶこととは、浮(ふ)沈(ちん)その道を異(こと)にする。水中に遊ぶことを好む者でなければ、水の世界の楽しさはわからぬはずである。薛主簿は、心は深い淵に浮ぶことを好み、身は障害のない境地に遊ぶことを望んでいる。はてしない水のひろがりを楽しみ、清らかな川の流れに憂いを晴らし、絶壁のようにけわしい俗界の情をきらって、幻の世を捨てたいと思っている。よってその願いをかなえることにする。しばらくのあいだ魚の姿にするのであって、ただちに身を魚に化するのではないから、かりに東の淵の赤い鯉の姿をあたえる。ああ、大波をおこす力をたのんで船をくつがえすようなことをすれば、冥(めい)界(かい)よりの罰を受け、釣針に目をくらまされて餌をむさぼるようなことをすれば、人間界よりの害を受けるであろう。身をあやまって同類を恥かしめることのないよう気をつけて、楽しく暮すがよい」
 魚の頭をした大男は河伯の詔書を読みおわると、鯨に乗って引き返していった。わたしは呆然と見送っていたが、ふとわが身をふりかえってみると、わたしの身体はすっかり赤い鯉になりかわっていたのであった。
 それからはわたしは悠々と泳ぎまわることができ、ゆこうと思うところへはどこへでもすぐゆくことができた。波の上であろうと淵の底であろうと、思いのままにならぬところは一つもない。三江五湖の遠いところまで、鰭(ひれ)をうごかして隈(くま)なく泳ぎまわった。ただ、住居は東の淵ときめられていたので、日暮れになればそこへ帰っていった。
 そのうちにだんだん腹がすいてきたので、食べ物をさがしたが見つからない。そこで一艘の舟のあとについていったところ、餌のついた釣針が目の前におりてきた。それは趙幹がおろした釣針だったのである。ひどく腹のすいているわたしには、その餌はうまそうに見えた。釣りあげられてはいかんと気にしながら、ついわたしは口を近づけた。だが、
「おれは人間だ。しばらくのあいだだけ魚の姿になっているだけだ。腹がすいているからといって、釣針を呑むなんてことができるものか」
 と思いなおし、餌を見捨ててそこを離れた。ところが腹はますますすいてくる。そこでわたしはまた考えた。
「おれは役人だ。たわむれに魚の姿になっているだけだ。釣針を呑んだところで、趙幹がおれを殺すはずはない。きっとおれを役所へ送り帰してくれるだろう」
 そして、その釣針に食いついてしまったのである。すると趙幹は糸をたぐって、わたしを水の中から釣りあげた。趙幹がわたしの身体をつかもうとしたとき、わたしは何度も、
「趙幹、おれだよ、おれだよ」
 と呼んだが、やつは耳にもとめずにわたしをつかまえ、わたしの腮(えら)に縄(なわ)をさし通して、葦のあいだへかくしてしまったのである。しばらくすると張弼がやってきて、
「裴県尉さまが鯉をお買い上げになる。大きいやつをくれ」
 といった。趙幹がいつわって、
「大きい鯉はまだ釣れませんので。小さいのなら、あわせて十斤あまりありますが」
 というと、張弼は、
「大きいのを買ってこいというおいいつけだ。小さいのでは役に立たん」
 といい、葦のあいだからわたしをさがし出し、腮に通した縄を持ってわたしをぶら下げた。そこでわたしは張弼にいった。
「おい、わしはお前の役所の主簿だ。魚に姿をかえて川を泳いでいたんだよ。なんでお前はわしに挨拶もせんのか」
 何度いっても張弼は耳もかさず、わたしをぶら下げて歩きだした。わたしはわめきつづけたが、張弼は知らぬ顔をして役所の門へはいっていく。門のところでは下役人が碁を打っていた。わたしはその下役人たちにも呼びかけたが、誰も返事をせずに、
「いやあ、これはでっかい鯉だ。三、四斤はあろうな」
 といって笑っている。奥の部屋へいくと、鄒県丞と雷県尉が博奕(ばくち)をしており、裴県尉は桃を食べているところだった。張弼がわたしを見せると、三人とも大きな鯉だといってよろこび、すぐ料理人にいいつけてなますにさせてくれといった。張弼が趙幹のことをいうと、裴県尉は怒って、趙幹を鞭(むち)で打つようにいいつけた。
 そのときわたしは、あなたがた三人に呼びかけたのだ。
「わたしはあなたがたと同役なのに、あなたがたはわたしを殺そうというのか。ああ、これがいっしょに任命された同役のすることか。なんというなさけないことだ」
 わたしはそういって、声をあげて泣いたが、あなたがたは知らん顔をして、
「早く料理人に殺させろ」
 と張弼をせかせた。
「なんということだ。助けようとしないばかりか、早く殺せとせかせるとは!」
 大声で泣いているわたしをぶら下げて、張弼は台所へゆき、わたしを料理人の王士良に渡した。王士良はちょうど庖丁をといでいるところだったが、わたしを見ると、
「これはよいなますができるぞ」
 と、よろこんでわたしを俎(まな)板(いた)の上に横たえた。そのときわたしはまた叫んだのだ。
「王士良よ。お前はわしがいつも料理をいいつけている料理人じゃないか。なんだって主人のわしを殺すのだ。早くわしを助けて、これは薛主簿だと同役にいってくれ。たのむ!」
 だが王士良は何もきこえないような顔をして、わたしの首を俎板におしつけ、ぐさりと庖丁をあてた。その俎板の上でわたしの首が落ちたと思った瞬間、この部屋でわたしは正気にかえったのだ。
 
 一同はこの話をきいて、不思議なこともあるものだと思った。趙幹が鯉を釣りあげたとき、張弼がそれをぶら下げてきたとき、下役人が門のところで碁を打っていたとき、三人が奥の部屋にいたとき、王士良が俎板の上にそれをのせたとき、誰もが鯉の口がぱくぱくと動くのは見たが、声はきこえなかったのである。
 一同はみな、それ以来、なますを口にしなかったという。
唐『続玄怪録』 
 
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