長沙の西南、湘(しよう)江(こう)のほとりに、金(きん)牛(ぎゆう)岡(こう)という岡がある。
あるときその対岸へ赤牛をひいた百姓がやってきて、漁師に呼びかけた。
「たんまりお礼をするから、川を渡してくれんかね」
「舟が小さいから、牛は無理だよ」
と漁師がいうと、百姓は、
「おとなしい牛で、あばれたりはしないから大丈夫だ」
といい、牛といっしょに舟に乗り移ってしまった。
牛はあばれなかったが、川の中ほどまでいくと、舟の中へぽたぽたと糞をした。すると百姓は笑いながら、
「これがお礼だよ」
といった。漁師はむっとして、
「畜生とはいえ、仕様のないやつだ」
と、ぶつぶついいながら、橈(かい)でその糞をはねあげて川の中へ捨てたが、半分ほど捨てたとき、それが黄金であることに気づいた。
漁師は不思議なことに思い、対岸へ渡してからそっと百姓のあとをつけていった。すると百姓も牛も、岡の中へもぐっていってしまった。漁師はいそいで穴を掘ってみたが、いくら掘っても、どこへいってしまったのかついにわからなかったという。
そのとき漁師が掘った穴のあとは、今も金牛岡に残っている。
六朝『湘中記』