南康郡〓(う)都(と)県は、貢(こう)水(すい)に沿って西へ突き出している県城であるが、県城から三里ほど下流の崖に、石室のような形をした洞穴があって、夢(む)口(こう)と名づけられていた。
むかし、この洞穴の中から純金のような色をした神(しん)鶏(けい)が出てきて、羽ばたきをしながら飛びまわり、よくとおる声で長く鳴いたという。そこで人々はこの洞穴のことを金鶏洞とも呼ぶようになった。金鶏は人に姿を見られると、洞穴の中へ飛び込んでしまうという。
ある人が近くの山中で畑を耕していたところ、金鶏が出てきて遊んでいるのが見えた。すると、背の高い一人の男があらわれて、弾丸を石弓につがえて金鶏を射った。金鶏はそれを見ると洞穴の中へ飛び込んだ。同時に弾丸は洞穴の真上に中(あた)り、直径六尺ほどの石が落ちてきて洞穴をふさいでしまった。以来、夢口はふさがれたままである。隙(すき)間(ま)はあいているけれども、狭くて誰もはいることはできない。
その後、ある人が下流から船で県城へ帰る途中、金鶏洞まであと数里というところにきたとき、全身に黄色い着物をまとった男に呼びとめられた。男は黄色い瓜(うり)をいれた籠を二つかついでいた。
乗せてやると男は、何か食べ物がほしいといった。船のあるじが料理と酒を出してやると、男は遠慮なく食べ且(か)つ飲んだ。
男が食べ終ったとき、船はちょうど金鶏洞のある崖の下にさしかかった。
「ここでおろしてくれ」
と男がいった。
「その瓜を一つもらおうか」
船のあるじがそういうと、男は、
「ああ、船賃か。船賃ならこれで十分だ」
といって、皿の上へ唾(つば)をはきかけ、さっさと岸へあがり、金鶏洞の中へはいって行った。
船のあるじは唾をはかれたときにはひどく腹をたてたが、男が洞穴の中へはいって行ったのを見て、はじめて神通力を持っている人だと悟り、あらためて男が唾をはきかけた皿を見た。すると、皿の上の唾はすべて黄金に変っていた。
六朝『述異記』