豫(よ)章(しよう)に、戴(たい)という娘がいた。心のやさしい娘であったが、長いあいだ病(わずら)っていて、いっこうによくならない。
ある日、陽(ひ)を浴びに表へ出たとき、山の麓で人形のような形をした小石を見つけたので、拾いあげて語りかけた。
「石さん、あなたは人間のような形をしているけど、もしかしたら神さまじゃないの。もし神さまなら、わたしの病気をなおしてください。そしたら大事にお祭りしてあげるわ」
娘はその石を持って帰り、その夜、枕もとに置いて寝た。すると夜中に一人の男があらわれていった。
「わたしは神だ。お前の病気をなおしてやるぞ」
翌朝から娘の病気は次第に快方に向い、数日後にはすっかり元気になった。娘はそこで山の麓に祠(ほこら)を立ててその石を祭り、自ら巫(み)女(こ)になって仕えた。
その祠は、戴(たい)侯(こう)祠(し)と呼ばれて、今も人々にあがめられている。
六朝『捜神記』