宮(きゆう)亭(てい)湖(こ)のほとりに、孤(こ)石(せき)廟(びよう)という廟がある。
あるとき一人の行商人が建康へゆく途中、その廟の前を通りかかると、二人の美しい少女があらわれて、
「わたしたちに、都(みやこ)で、糸で編んだ鞋(くつ)を買ってきてくださいません? お礼は十分にしますから」
といった。
行商人は建康に着くと、上等の糸で編んだ鞋を二足買い、綺麗な箱も買ってそれを入れた。そのとき、自分のために買った小刀もその箱の中へ入れておいた。
建康からの帰途、行商人は鞋を入れた箱を廟に供え、香を焚(た)いて、
「お申しつけの物を買ってまいりました」
といったが、二人の美しい少女はあらわれなかった。
行商人はそれから舟に乗って川の中ほどまできたとき、廟に供えた箱から小刀を取り出すのを忘れたことに気づいた。美しい少女があらわれなかったのは小刀のせいかもしれぬ、と思っていると、突然一匹の鯉(こい)が舟の中へ跳びこんできた。その鯉の腹を割(さ)いてみると、忘れてきた小刀が出てきた。
以来行商人は何をあきなってもみな売り切れ、数年のうちに大金持になったという。
六朝『捜神記』