千(せん)乗(じよう)に、董(とう)永(えい)という人がいた。
子供のころ母を亡くし、父と二人で畑仕事をしていたが、いつも父を小さい車に乗せて、いたわっていた。やがてその父も亡くなったが、貧乏で葬式をする金もない。そこで自分の身を売って奴隷になり、その金で葬式をしようとした。董永を買った主人はそのことを知ると、その孝行に感じ、一万貫の銭を与えて家へ帰らせた。
董永は家へ帰って三年の喪(も)をすませると、奴隷のつとめをはたそうとして、また主人の家へ出かけた。すると、途中で出会った女が、
「どうか、あなたの妻にしてください」
というので、いっしょに主人の家へつれていった。主人は董永を見ると、
「あの銭はあなたにあげたのです。働いて返してもらうつもりではないのです」
といったが、董永は、
「あなたさまのおかげで、父の葬儀をすることができたのです。ぜひともご恩返しをさせてください」
という。主人が、
「奥さんには何ができますか」
とたずねると、女は、
「機(はた)織(お)りができます」
と答えた。すると主人は、
「それでは、奥さんに百疋(ぴき)の絹を織っていただきましょう。それで十分です」
といった。
女はその日から機を織りはじめたが、十日で百疋の絹を織りあげてしまった。
仕事が終って主人の家を出ると、女は董永にいった。
「じつは、わたしは天上の織(しよく)女(じよ)なのです。あなたの孝行をめでて、天帝さまが、あなたのお手伝いをして、あの親切なご主人へのご恩返しを早くさせてあげるようにと、わたしを下界へおつかわしになったのです。どうか、お元気で。きっとよい奥さまをおもらいになるでしょう」
いいおわると、織女はそのまま空へ舞いあがってゆき、見る見るその姿は雲の中に消えていった。
六朝『捜神記』