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中国怪奇物語126

时间: 2019-05-28    进入日语论坛
核心提示:  崑崙奴の術者 長安に、崔(さい)晨(しん)という侍従武官がいた。 崔晨の父は高官で、劉という元老と親しかった。ある日
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   崑崙奴の術者
 
 
 
 
 長安に、崔(さい)晨(しん)という侍従武官がいた。
 崔晨の父は高官で、劉という元老と親しかった。ある日、崔晨は父の使いで劉元老の病気を見舞いにいった。
 劉元老の病室には、三人の女がかしずいていて、金の壺にいれた桜桃をむいては牛乳をかけ、それを元老に食べさせていたが、元老は崔晨が父の口上を述べるのをきいて大変気にいったらしく、三人のうちの赤い衣裳の女に、
「おまえ、その若者に匙(さじ)で桜桃を食べさせてやれ」
 といった。崔晨ははずかしくて、手をふってことわったが、元老はきかず、
「わしの好意が受けられんというのかね」
 という。崔晨は仕方なく、口をあけて匙の桜桃を受けたが、はずかしくてならなかった。
 やがていとまを告げると、元老はその赤い衣裳の女に、崔晨を門まで見送らせた。門で別れるとき女は指を三本立て、掌(てのひら)を三度ひるがえし、それから胸にかけていた小さな鏡を指さして、
「おぼえていてね」
 といった。
 崔晨はそれからその女を忘れることができず、毎日ぼんやりと考えこんでいて、食事も忘れるほどであった。崔晨の下男に磨(ま)勒(ろく)という崑(こん)崙(ろん)奴(ど)(黒人の奴僕)がいたが、主人がふさぎこんでいるのを見て、
「なにをくよくよしていらっしゃいます。おっしゃってください」
 といった。崔晨が、
「おまえにいったところで、どうなることでもない」
 というと、磨勒は、
「おっしゃってくだされば、どんなことでもやりとげてごらんにいれます」
 という。崔晨は磨勒の口ぶりがいかにも自信ありげなのを見て、わけを話すと、
「そんなことですか。なにもむずかしいことはありません。指を三本立てたのは元老さまのお屋敷には歌姫の部屋が十あって自分の部屋はその中の三番目だということ、掌を三度ひるがえしたのは、全部で指が十五本、つまり十五日ということです。胸にかけた鏡を指したのは、十五夜には月が鏡のように丸くなりますから、その夜、若旦那に来てほしいということですよ」
「そうか、それでわかった。なんとかわたしの思いをとげる工夫はないか」
 崔晨がよろこんでそういうと、磨勒は笑いながら、
「今夜がちょうど十五夜です。あそこへ忍びこむためには身軽でなければなりませんから、濃い青い絹を二疋ください。それで若旦那に身軽な服を作ってあげましょう。それから、あのお屋敷には猛犬がいて歌姫たちの部屋の番をしておりますから、まず、その犬を殺してしまわなければなりません。あの犬を殺せる者は、わたしのほかにはいないでしょう。日がくれたらさっそく殺してきます」
 といった。そして日がくれると鉄の棒を持って出かけていったが、しばらくたつと帰ってきて、
「犬はもう殺しておきました。あとは、わけはありません」
 といい、真夜中になると、崔晨に青い着物を着せ、背に負って十重の垣根を乗り越え、歌姫たちのいる棟へはいっていった。
 赤い衣裳の女の部屋は、はたして三番目であった。扉をとざさず、ともしびをつけたまま、寝ずに誰かを待っている様子であった。
 磨勒にうながされて崔晨がはいってゆくと、女は身体中でよろこびの色をあらわし、崔晨の手をにぎっていった。
「口でいって人にきかれるとまずいので、手でお話をしたのです。よくわかってくださいました。それにしても、ここまではいってこられたとは、よほどの術をお持ちなのですね」
 崔晨が磨勒のことを話すと、女は、
「その人はどこにおいでです?」
「おもてで番をしております」
「大丈夫ですから、お呼びください」
 崔晨が磨勒を呼びいれると、女は磨勒に礼をいって、金の壺から酒を汲んですすめ、それから身の上話をした。
「わたしの家は、もとは金持で、北方に住んでおりましたが、劉元老が将軍になって北方へこられたとき、むりに妾にされてしまったのです。自殺することもできず、いたずらに生きながらえて、顔には紅おしろいぬっていても心は沈むばかりで、ここはわたしにとって牢獄でございます。あなたのご家来がそのような術をお持ちなら、わたしをこの牢獄から救い出して、あなたの婢(はした)女(め)にでもしてください」
「よろしい。あなたを救い出しましょう」
 といったのは磨勒であった。
 磨勒は崔晨と女をいっしょに背負い、十重の垣根を飛びこえて無事に家に帰った。
 女はその後二年間、崔晨の家にかくれていたが、花見どきについ気をゆるして曲(きよく)江(こう)のほとりへ出かけ、元老の家の者に見つけられてしまった。部下からそのことをきいた元老は、さっそく崔晨を呼んで詰問をした。崔晨がかくしきれずに事の次第を語ると、元老は、
「よし。女はその方にくれてやる。だが、崑崙奴の術者はゆるしておくわけにはいかん」
 といい、ただちに五十人の兵士に崔晨の家をかこませたが、磨勒は垣根の上を鷹か隼(はやぶさ)のように飛びまわって、兵士たちが雨のように矢をそそいでも一つもあたらず、あっというまに姿を消してしまった。
 それから十年あまりたったとき、崔家の者が洛陽の町で薬を売っている磨勒を見かけたが、声をかけると裏町のほうへ姿を消してしまった。顔はむかしのままの若さだったという。
唐『伝奇』 
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