江南では紫(し)姑(こ)神(しん)という神が信仰されている。
むかしからの言い伝えによると、この神はもとある家の妾(めかけ)だったが、本妻に嫉妬されて便所や豚小屋のきたない仕事ばかりさせられていたため、思いあまって、正月の十五日に自ら首をくくって死んでしまったのだという。
だから世間の人々はその命日にこの神の像を作って祭り、夜中に便所や豚小屋のあたりへ行って神おろしをする。
そのときの呪(じゆ)文(もん)は、まず、
「子(し)胥(しよ)は留守」
というのだが、これは夫の名である。次に、
「曹(そう)姑(こ)も里帰り」
という。これは本妻の名である。そして最後に、
「紫姑さん、遊びにいらっしゃい」
と呼ぶ。
神像を持っている人の手が重たくなってきたら、神がくだってきたしるしである。そこで酒や肴(さかな)をそなえると、神像の顔は明りに照らされてきらきらとかがやきだし、やがて踊りだしてとまらなくなる。そのとき、いろいろなことについてうかがいをたてたり、農事や養蚕について予言をしてもらったりするのである。
この神は、ものをあてることがうまいのである。また、機嫌のよいときはさかんに踊るが、機嫌がわるいときは仰向けに寝てしまって何をきいても答えない。
平(へい)昌(しよう)の孟(もう)という人はこの神を信じなかったが、あるとき自分で神像を作ってみたところ、像はひとりでに飛びあがって屋根を突き抜けたきり、どこへ行ったのかわからなくなってしまったという。
六朝『異苑』