湖北の襄陽(じようよう)の李除(りじよ)が疫病にかかって死んだ。その妻が通夜をしていると、真夜中に、死体がむっくり起きあがって、妻が腕にはめている腕輪を、せかせかと抜き取ろうとした。
妻もいっしょになって腕輪をはずし、それを夫の手に握らせてやると、死体はまた倒れてしまった。
妻はずっと死体を見守っていたが、夜明けごろになると、死体の胸のあたりに温(ぬくも)りが生じ、やがて息をふきかえした。
李除は生き返ってから、つぎのような話をした。
「冥府の役人に引っぱられていったが、たくさん仲間がいた。その中の一人が役人に賄賂をやって逃がしてもらったのを見て、わしも金の腕輪をやるから逃がしてくれとたのむと、それでは取ってこいといって帰らしてくれたので、家へ帰るなり急いでおまえから腕輪を取って、役人にとどけにいったのだ。役人は腕輪を受け取ると、わしを放免してくれた。わしは役人が腕輪を持って帰っていくのを見たよ」
それから数日たったとき、妻はその腕輪が着物の中に返されているのを見た。妻は受け取ると夫のいのちがあぶないと思い、まじないをしてもらって土の中へ埋めた。
六朝『捜神後記』