宋の後廃帝(こうはいてい)の元徽(げんき)年間のことである。
湖北の江陵に朱泰(しゆたい)という者がいた。病気になって死んでしまったが、まだ棺へ納めないうちに亡霊になって姿をあらわし、自分の死体のそばに坐って、母親をなぐさめたり、はげましたりした。その姿は家族の者にはみな見えた。
朱泰は自分の葬儀をできるだけつましくするように、あれこれと家族の者に指図(さしず)をしながら、母親に言った。
「このごろは家の暮しが苦しいのに、わたしが死んでしまって、お母さんのお世話をすることができず、申しわけありません。この際、すこしでも倹約をすることを心がけなければなりません。わたしの葬儀に金をかけるようなことはしないでください」
六朝『述異記』(祖冲之)