河南の汝南(じよなん)に周義(しゆうぎ)という者がいた。妻を迎えてからまもなく、兄が江西の豫章郡艾(がい)県の県令になったので、妻を連れて、兄とともに艾県へ行った。
ところが、途中で病気になった。艾県まであと十里というところまで行ったとき、病状が重くなったので、兄は家族の者をそこに残し、一刻も早く治療させるために周義だけを連れて道をいそいだ。しかし運わるく、艾県へ着いた翌日、周義は死んでしまった。
あとから着いた周義の妻が泣く泣く遺骸に対面すると、死体はかすかに手を上げた。妻が遺骸の乱れた髪に櫛(くし)を入れてやると、死体は手をのばして妻のかんざしを抜き取った。
納棺がすみ、妻が部屋に引きとって休んでいると、周義の亡霊が姿をあらわして、
「いっしょに寝てもよいか」
と言った。妻がうなずくと床の中へはいってきて、
「おまえといっしょに暮した期間は短かったが、お互いにどんなに深く愛しあったことか。短かっただけに、愛しあっていただけに、わたしにはいっそう未練が残るのだ」
と言い、生きていたときと同じように情を交した。そのあとで妻が、
「あなたとわたしは、いまは幽明境(さかい)を異(こと)にしていますのに、それを越えて、このようなことをしてもよいのでしょうか」
と言うと、周義の亡霊は、
「わたしを迷わせたのは兄だ。兄がわたしとおまえを別々にしてしまったので、わたしは臨終のときにおまえに別れを告げることもできなかった。それでわたしは、おまえがやっときてくれたとき、手を上げて別れの挨拶をし、それからおまえのかんざしを記念に抜き取って冥界へ旅立とうと思ったのだが、兄たちががやがやとさわぎたてたので、生きている人間の気が襲いかかってきて旅立つこともできなかったのだ」
と言い、それからも毎晩あらわれて、生きていたときと同じように妻といっしょに寝つづけた。
六朝『述異記』(祖冲之)