呂順(りよじゆん)という男がいた。妻が病死したので、妻の従妹(いとこ)を後妻に迎えた。
その後、呂順は自分の死後のことを考え、北山(ほくざん)に三人分の墓を築きにかかったが、墓は土を盛り上げてできあがりかけると、そのたびにくずれてしまって、何度やりなおしても完成しなかった。
ある日、呂順が家で一人昼寝をしていると、先妻の亡霊があらわれて、
「あなたは従妹をかわいがって、わたしのことはもうすっかり忘れてしまったのね」
といい、床の中へはいってきて情交を求めた。そのからだは氷のように冷たかった。呂順が、
「おまえのことを忘れたわけではないが、死者と生者とのあいだにはへだてがあるのだ。生者の世界へまよい出てきて、そんなことをしてはいけないよ」
と言うと、亡霊はしぶしぶ帰って行った。
その後、亡霊は従妹の前に姿をあらわして、怒った様子をして言った。
「世間に男はいくらでもいるのに、あんたはどうして、従姉のわたしの夫を取ってしまったの? 従妹に夫を取られたと思うと、わたしはあの世でもおちおちしてはいられないよ。お墓をくずしたのも、このわたしのしたことなのさ」
それからまもなく、呂順夫婦は病気になって、いっしょに死んでしまった。
六朝『幽明録』