浙江(せつこう)の呉興(ごこう)に、袁乞(えんきつ)という人がいた。
相思相愛の妻がいたが、ふとした病がもとで不帰の客になってしまった。妻は臨終のとき、袁乞の手を握って、
「あなた、わたしが死んだら誰かと再婚なさるわね」
と言った。袁乞が妻の手を握り返して、
「何を言うか。わたしには、おまえのほかに愛する者はいないよ。再婚などするものか」
と答えると、妻は、
「ありがとう、あなた」
と言って死んだ。
妻の喪(も)があけると、袁乞は再婚した。すると、昼間、死んだ妻の亡霊があらわれて、
「あなたはわたしが死ぬとき、再婚をしないと約束なさったのに、どうしてその約束を破ったのです!」
と言い、いきなり袁乞の一物(いちもつ)を刀で刺した。傷は命にかかわるほどのものではなかったが、一物はそれきり一生使いものにならなかった。
六朝『異苑』