洛陽の準財里(じゆんざいり)に、開善寺という寺がある。この寺は、もと韋英(いえい)という者の屋敷だったのである。
韋英は若くして死んだが、妻の梁(りよう)氏は夫が死ぬと喪(も)にも服さずに再婚し、向子集(しようししゆう)という者を夫に迎えて、もとの家に住んでいた。
すると、二人が結婚してから数日たったある日の昼、韋英の亡霊が馬に乗り数人の従者を連れてやってきて、庭さきで大声でどなった。
「梁氏よ、おまえはわたしのことを忘れてしまったのか」
向子集はおそろしさのあまり、弓を引きしぼり、韋英の胸を目がけて矢を放った。矢はねらいたがわず胸にあたって、韋英は倒れたが、倒れると同時に、その姿は桃の木で作った人形にかわってしまった。韋英が乗っていた馬は、茅(かや)を束ねた馬になり、従者たちは蒲(がま)の穂(ほ)で作った人形にかわった。
梁氏はすっかり怖気(おじけ)づき、その屋敷を寄進して寺にしたのである。
六朝『洛陽伽藍記』