山東の東莞(とうかん)に承倹(しようけん)という人が住んでいたが、病気で亡くなり、北郊の山の麓(ふもと)に葬られた。
それから十年たったある夜、東莞の県令の夢枕に承倹の亡霊があらわれて訴えた。
「わたしは本県に住んでいて死にました承倹という者でございます。いま泥棒におし入られて困っております。県令さま、どうかすぐお助けください」
県令はさっそく、百人の捕(と)り手を召集し、馬に乗って北郊の承倹の塚へ急いだ。
もう夜が明けようとするころだったが、にわかに濃い霧が立ちこめてきて、顔をつきあわせても相手が見えないほどだった。ただ、塚の中からは、ばりばりという棺をこわす音がきこえていた。
塚の上では二人の男が霧の中を見すかしていたが、暗いので捕り手の近づくのが見えなかった。
県令は塚の近くまで行くと、百人の捕り手に、いっせいに塚の中の賊におそいかからせた。捕り手は喚声をあげて進み、塚の中にいた三人の賊を捕えた。
塚の上にいた二人は、濃い霧の中へ逃げていってしまった。
夜が明けてから見ると、棺はまだ全部はこわされていなかったので、県令は職人を呼んで修理させたうえ、もとのように埋めさせた。
その夜、県令の夢枕にまた承倹の亡霊があらわれて言った。
「お助けくださいまして、まことにありがとうございました。二人は逃げましたが、わたしはよく人相を覚えておきましたので、申しあげます。一人は顔に、豆の葉のような形の青い痣(あざ)があります。もう一人は、前歯が二本欠けております。それを目じるしに捜索なされば、かならず捕えられると思います」
翌日、県令は逃げた二人の特徴を捕り手に知らせた。捕り手はまもなく二人を捕えてきた。
六朝『捜神後記』