河南の陳留(ちんりゆう)の周家に、興進(こうしん)という下女がいた。
ある日、山へ薪(まき)を取りに行ったが、疲れて一休みしているうちに、眠ってしまった。と、夢の中に一人の女があらわれて、
「わたしはあなたの頭のすぐそばにいるのですが、目の中にとげが刺さって困っております。お手数ですが抜いてくださいませんか。お礼は十分いたしますから」
と言った。
目をさまして見ると、古い塚にもたれて眠っていたのだった。立ちあがって、自分がもたれていたところをふりかえると、ちょうど頭を置いていたあたりに穴があいていた。のぞいてみると古びた棺が見え、中から髑髏(どくろ)が一つころがり出てきた。見れば髑髏の目の中に草が生えている。
興進は夢の中の女のことばを思い出して、その草を抜き取ったうえ、髑髏を棺の中へ納めて、塚の穴を石でふさいでおいた。
山からの帰り道、興進は一対の黄金の指輪を拾った。周家に帰ってから主人にこのことを話すと、主人は、
「不思議なこともあるものだ。塚の女の亡霊が、おまえの心のやさしいのを見込んでたのんだのだろう。よくやった。その指輪は亡霊のお礼にちがいない。もらっておきなさい」
と言い、しきりに感嘆した。
六朝『述異記』(任〓)