晋のとき、顔従(がんじゆう)という人が家を新築した。
と、ある夜、顔従の夢枕に一人の男があらわれて、
「あんたはひどい人だ。わしの住いをぶちこわしたりなんかして」
と怒った。
翌日、顔従が寝室の床下を掘ってみると、一つの棺が出てきた。そこで供養の支度をして、
「ほかによい場所をさがしてお移ししますから、どうかお怒りなく」
と言い、さっそく近所を歩きまわって墓地にふさわしい場所をさがしたところ、近くの丘の麓(ふもと)に格好(かつこう)のところが見つかった。
その日の昼すぎ、一人の男が訪ねてきて、ぜひとも顔従に会いたいと言った。部屋へ通すとその男は、
「わたしは朱護(しゆご)という者です。もう四十年間ここに住んでいて、さびしい思いをしておりましたが、このたびは日当りのよいところへ住いをお移しくださいます由、なんともお礼の申しあげようもありません。つきましては、いろいろとご出費をおかけすることになると思いますので、どうかこれをお売りになって、費用の一部にあててくださいますように」
と言う。顔従ははじめ何のことかわからなかったが、男の顔を見ると、昨夜夢枕にあらわれた亡霊とそっくりなので、
「ああ、あなたは昨夜の……」
と言うと、男は、
「いやいや、昨夜は怒ったりなどしまして、失礼をいたしました」
と言い、棺の中の箱から黄金の鏡を三つ取り出して顔従の前に置くと、そのまま姿を消してしまった。
顔従はその鏡を売って金にかえ、りっぱな墓を築いて盛大な祭りをしたが、金はそれでも余った。
六朝『異苑』