〓州(えんしゆう)の長官の夏侯祖欣(かこうそきん)が在任中に亡くなったため、沈僧栄(しんそうえい)が後任に選ばれて赴任した。
すると、ある夜、祖欣の亡霊があらわれて、
「その帯はなかなかよい帯だな。わしにくれぬか」
と言った。寝台のそばに、宝玉を飾った帯が掛けてあるのを見て、そう言ったのだった。
「よろこんで差し上げましょう」
と僧栄が言うと、祖欣は、
「亡霊は持っていくことはできぬと思って、安心してそう言っているのだろう」
と言う。
「いいえ、ほんとうに差し上げます」
「よろしい。ほんとうにわしにくれるつもりなら、この場でその帯を焼いてみせてくれ」
そこで僧栄は火をつけて帯を焼いた。そして、
「これでよろしいでしょうか」
と祖欣を見上げると、すでに祖欣の腰にはその帯がしめられていた。
六朝『述異記』(祖冲之)