笑府
蘇州に潘(はん)十万という大金持がいた。
死んで地獄へ行ったところ、大金持がきたというので鬼卒どもは大さわぎ。茶をとどける者、菓子をとどける者、果物をとどける者がひきもきらず、たいへんなもてなしぶり。潘十万はその鬼卒どもに向って、
「大王さまへのお目通りがすんだら、みなさんにお礼します」
と約束した。
さて潘十万が閻魔大王との会見をすませて門から出てくると、外で待ちかまえていた鬼卒どもが、どっと寄ってきて我さきにと手を出した。潘十万はおもむろに袖の中をさぐってみて、はじめて気がついた。
「ああ、一文もない。どうしたらよかろう……」
金はみんな娑婆へ置いてきたのであった。