笑苑千金
ある女房、船で商売をしている亭主から、何月何日ごろ必ず帰るという知らせがあったので、いそいそとして酒を一甕(ひとかめ)仕込み、早く醸(かも)しあがるように使いふるした裙子(スカート)でくるんで、亭主の帰りを待ちわびていた。
その息子はませた子で、毎日甕の所へ行って匂いをかぎ、早く飲ませてほしいといってせがむ。女房は、
「父さんが帰ってくるまではだめだよ。それより、川端へ行って見張っておいで。父さんの船が見えたら知らせにくるんだよ。そのときはおまえにも飲ませてあげるからね」
という。川端で見張っていた息子は、ある日、父親の船が川をのぼってくるのを見つけ、急いで帰ってきていった。
「母さん。父さんの船が見えたよ。帆柱をおっ立てて川をのぼってくるよ。母さんの裙子の下のもの、今夜はたのしみだねえ」