笑海叢珠
むかし、ある寺に大きくて立派な飼犬がいた。これを盗もうとたくらんでいる賊のいることを知った和尚が、夜中に犬小屋へはいってうずくまり、じっと賊のくるのを待っていたところ、はたして忍び寄ってくる二、三人の足音がきこえた。やがてそのなかの一人が手さぐりをしながら犬小屋へはいってきたが、和尚の頭に手をふれるなり、あわてて外へ飛び出して、仲間の者にささやいた。
「やめておこう。おそろしい犬だ。ふぐりさえ人間の頭ぐらいあるんだから、どれくらい大きいか知れぬ。あれじゃとてもおれたちの手にはおえないだろう」