笑海叢珠
むかし、ある家で法事をいとなんだ。たのまれてきた僧侶がお経を読んでいると、ちょうど頭の上に燕の巣があったので、糞(ふん)が落ちてきて僧侶の頭にぺたりとくっついた。僧侶が顔をしかめて、
「ちくしょう。くそやろうめ」
というと、主人は自分が罵られたのだと思って、
「なにごとです」
といった。
「いや、なに、燕がわたしの頭に糞をひっかけよったので」
すると主人がいった。
「それはそれは……。だが、それも因果というものでしょう。『果報経』にも『もし前世の因(いん)を問わば、今生(こんじよう)受くるもの是れなり』とございます。おそらくこれは、あなたがまだ僧侶になられる以前に、鳥の頭に糞をひっかけなさったことがあって、いまその報いをお受けになったのでしょう」
僧侶はいよいよ顔をしかめてつぶやいた。
「わしの商売を横取りして、因果を説きやがる」