笑海叢珠
昔、ある人が粉屋をはじめた。当初は人の力でひいていたが、粉があらく、宮中へ献上しても御意(ぎよい)に召さない。その後、赤牛にひかせたところ、きめのこまかい粉ができた。天子はたいそう気に入り、粉屋を召し寄せてわけをたずねられた。
「このごろ赤牛を手に入れ、それにひかせましたところ、力が強い上に、ゆっくりとひきますので、きめのこまかい粉ができるようになりました」
粉屋がそういうと、天子は、
「それは牛の力だ。その牛を特に将仕郎(しようしろう)に任じよう」
との仰せ。こうして、牛は詔勅を受けて将仕郎の官に就いた。
それからというもの、牛は天子じきじきのお言葉によって官位を得た役人であるため、歩こうとしなくともこれまでのように笞(むち)で叩くわけにはいかず、粉屋はひたすら礼をつくして、
「将仕郎閣下、どうぞお歩きになってくださいませ」
というようになった。