笑苑千金
ある役人が知人の家へ行って数日泊ったので、その人は鶏を殺したり黍(きび)を蒸したりしてもてなした。ところが、その後会っても役人は一言も礼をいわない。
そこでまた家に招いて、こんどは羊や豚を殺してもてなした。ところが、その後会っても役人はやはり、一言も礼をいわない。
そこでまた家に迎えて、こんどは子供を殺してもてなした。ところが、その後会ってもやはり、一言も礼をいわない。
その人はたまりかね、礼をつくして役人に伺いを立てた。
「わたくしの家においでくださっても、十分なおもてなしはできませんので、あなたにとっては言うに足りないことかもしれません。しかし、子供を殺して酒の肴(さかな)にいたしましたことは、礼として決して薄いことではないと思います。それなのにどうして一言のご挨拶もいただけないのでしょうか」
すると役人はいった。
「わしは普段から人を食いつけているのでな。子供なんかは、全く言うにも足りないことなんだよ」