応諧録・笑府・笑得好
二人の男が道の真中で罵りあっている。
「おまえは欺心(うそつき)だ」
と一人がいうと、もう一人は、
「いや、おまえこそ欺心だ」
といい返し、一人が、
「おまえは天理(どうり)にはずれている」
というと、もう一人は、
「いや、おまえこそ天理にはずれている」
といい返す。
道学先生がそれを見て、弟子たちにいった。
「おまえたち、あれを聞くがよい。あれは学問をしているのじゃ」
「口喧嘩をしているのです。なんであれが学問ですか」
と弟子たちがいうと、先生、
「心(しん)を説き理(り)を説いているではないか。学問でなくて何だというのだ」
「学問なら、なぜ罵りあうのですか」
「おまえたち、よく考えてみるがよい。今日の学者で、一人でも相手を罵らない者がいると思うか」