笑海叢珠
むかしある男が、城外に露店を開いて油〓(ユウツー)(油で揚げた餅)を売っていた。ある日、一人の道士が買いにきたが、食べてみて、
「うん、これはなかなかうまい」
といい、主人に向って、
「油がいるからあまり儲(もう)からんだろう。わしは油のいらない秘法を知っている。そのうちに伝授してあげよう」
といった。主人は真(ま)に受け、その後は道士がくるたびに五つ六つ包んで渡し、
「お代はいりません」
といった。
ある日、その道士が荷物をかついで立ち寄り、旅に出ることになったといって別れの挨拶をした。主人は、
「路用の足(た)しに」
といって銭二百文を道士の手に握らせ、そして、
「その代りにというわけではありませんが、例の油のいらない秘法というのをお授けくださいませんか」
「よろしい。では、もう少し先まで送ってもらおうか。人のいない所で伝授してあげよう」
主人が荷物を持って送って行くと、
「ここでよい」
といって道士は荷物を受け取り、
「では、伝授してあげよう。これからは油で揚げずに、焼いて売るのだ。そうすれば油がいらない」