笑苑千金
ある村に金持の老人がいた。自分の誕生日に、三人の息子の嫁を呼んでいった。
「今夜のわしの誕生日祝いの席で、おまえたち、それぞれおもしろい趣向を工夫して、わしに祝い酒をすすめてくれ」
「かしこまりました」
と三人は声をそろえていった。
さて、夜になって祝宴がはじまり、一族の者が全部集まった。長男の嫁には二人の女の子がいたが、彼女はその二人の女の子を左右の手に一人ずつ引いて老人の前に進み出ると、
「おとうさま、おめでとうございます。わたくし、『姦』という字でおとうさまに一献(こん)さし上げます」
といって酒をすすめた。
「ありがとう。なるほど、女三人で『姦』の字か。うまい趣向だ」
老人はよろこんで酒を飲んだ。
次男の嫁には男の子が一人いた。彼女はその男の子の手を引いて老人の前に進み出ると、
「おとうさま、おめでとうございます。わたくしは『好』という字でおとうさまに一献さし上げます」
といって酒をすすめた。
「ありがとう。なるほど、女一人と男の子一人で『好』という字か。これもうまい趣向だ」
老人はよろこんで、また酒を飲んだ。
三男の嫁はとついできてから間もなく、まだ子どもがなかった。彼女はしばらくためらっていたが、やがて一人で老人の前に進み出ると、
「おとうさま、おめでとうございます」
といい、片足を腰掛けの上へ横ざまに伸ばし、自分のかくしどころを指さしながら、
「わたくしは『可』という字でおとうさまに一献さし上げます」
といって酒をすすめた。
老人は嫁の指さすところをのぞき込みながら、
「なるほど、『可』の字になっている。これはまたおもしろい趣向だ」
といい、よろこんで酒を飲んだが、飲みながらつくづくその『可』の字の『口』のところを眺めて、
「だが、『可』の字の『口』が少しゆがんでおるのう」
満座の人々はみな大笑いをした。