笑海叢珠
河伯(かはく)(川の神)が宴席を設けて、竜王を招いた。
「これはこれは、遠路わざわざお越しくださいまして、まことに光栄に存じます。どうかご遠慮なくおくつろぎくださいますよう」
と河伯が挨拶をすると、竜王は、
「このたびはお招きにあずかって、まことにかたじけない。ところで、お宅の酒は味がうすく、腹が脹(は)るばかりで、いっこうに酔いがまわってきませんな」
といった。
「そうおっしゃるところを見ると、竜王さまは『千字文』をお読みになったことがないようで……」
「それはどういうことかな」
「『千字文』にはちゃんと、こう書いてございます。『海鹹河淡』(海は塩からく河は淡し)と」